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第1031号(平成16年8月20日) |
独立行政法人として再出発した国立病院
本年四月より,国立病院・療養所が,国の制度改革の一環として,公的医療機関の機能強化と共に,病院の自主性を重視し,効率的に運営することを目的として,独立行政法人化(独法化)された.
制度が変わったのは,国立病院・療養所ばかりではない.国立大学病院も同時に独法化された.再出発してまだ四カ月しか経っていないので,われわれがどう変わったか,どう変わろうとしているのかを皆様に知っていただくため,詳述してみる.
一,組織
機構本部は,駒沢オリンピック公園の横,東京医療センターの敷地内にある.法人の理事長は,前国立国際医療センター総長の矢崎義雄先生が坂口力厚生労働大臣より任命され,副理事長一名,他に理事として十三名,監事二名からなっている.
理事には,民間の方々からも四名,われわれ地方ブロック代表の形で六名が加わっている.毎月一回の本部機構での理事会,その他の諸会合がある.
二,中期目標・中期計画
今後五年間の中期計画期間中に達成せねばならない種々の目標,計画がある(図).
まず,診療事業では,診療対象が「政策医療」の適切な実施となっている.政策医療については,多くの議論を呼んだが,全部で十九分野(ガン,循環器病,成育医療等)や小児救急医療で,患者の目線に立った,患者さんが安心できる,質の高い医療を提供していこうというものである.
セカンドオピニオン制度の導入,定期的な患者満足度調査,倫理委員会,治験審査会等の医療倫理確立の義務付け,医療安全対策の充実,小児救急,救急医療への対応,チーム医療の推進と医療の標準化,クリティカルパスの活用促進,EBMに基づく医療を実践するためのデータベースの構築,地域の医療機関との病診,病々連携を進め,医療機器の共同利用,患者紹介率,逆紹介率の引き上げ等々,現在われわれの頭の中にある医療関係のキーワードは,すべて網羅されている.
もちろんこの他,AIDS感染症,国際医療協力,災害医療等,かつて国立病院療養所時代に担って来た事業はすべて引き継いだ.
次が臨床研究事業である.何しろ,百五十四施設,疾患別に全国ネットワークができているので,この組織を利用してEBMのエビデンスづくりの推進,治験の推進が重要な課題となっている.今までも,国立病院,療養所中心に,いろいろな臨床研究をして来たが,いま一つ,足並みが揃わなかったのであるが,独法化後,諸臨床指標を出すための,症例データベース化が進み,これに乗る形で,これらの臨床研究が動き始めた.
次に大きな事業が,教育研修事業である.初期研修医の義務化と時を同じくし,たくさんの臨床研修医を受け入れた.医師・看護師のキャリアパス制度を構築し,優秀な医療従事者を育成するのも,大きな事業である.多くの研修医を抱え,われわれは張り切っている.
次が,業務運営の効率化である.これには,何といっても企業会計原則への移行が,われわれへのインパクトの一番大きなところであった.健全経営こそ,医療の基礎であり,業務運営コストの節減,資源の有効利用(平均在院日数の短縮化等),競争的研究資金の獲得,教育研究事業での,適正な入学金,授業料等で,五年後には,経営収支率一〇〇%以上を目指すとなっている.
以上のごとく,直接の国営から離れ,運営費交付金なる補助金も微々たるもので,筆者の印象では,ほぼ独立採算制に近い状態である.経営に必要な資金調達の銀行業も,機構本部が行うということであるので,何とか不渡り手形を出さないように,そして,質の高い安全な医療を提供すべく,努力している.
まだ始まったばかりであるので,はっきりとは見えて来ないが,独法化を機に,一段と近代化された医療提供施設になろうと頑張っているところである.
(仙台医療センター院長 櫻井 芳明)
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