日医ニュース
日医ニュース目次 第1033号(平成16年9月20日)

勤務医のページ

開始された新医師臨床研修制度について
(大学付属病院の立場から)

一,研修理念とその対応

 研修理念は,「医学および医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ,一般的な診療において頻繁にかかわる負傷または疾病に適切に対応できるよう,基本的な診療能力を身に着けることができるものでなければならない」と提示されている.特定機能病院として特化される大学付属病院ではあるが,対象疾病の原因,誘因,発症・悪化要因として,いわゆる生活習慣病の関与が甚大であり,受け持ち症例の診療のなかで,同時にそれらへの基本的(+発展的)診療能力を研修できるよう,指導医,上級医,そして看護師,薬剤師などの意識改革が始まっている.
 ただし,個々の研修医に指向性や種々の能力に差異があることは明白であり,これらをどのように伸ばしていくか,むしろ研修医自身の姿勢と積極性が重要である.ローテートが頻繁になること,週四十時間研修の原則(実際は従来よりやや勤務時間短縮程度)などから,「新入医局員―われらが同胞」というより,「BSLの続き―医師版」という表現が一般的な捉え方の観は否めない.

二,新医師臨床研修制度を支える組織

 研修委員会(学内委員:院長,副院長,看護部長,代表的診療科部長,プログラム責任者,事務部長,学外委員:地域保健所長,地域医師会長,研修協力病院長,診療所長)が総括しているが,実務は,研修医制度担当事務,プログラム正副責任者会議(研修ローテートの決定,評価,ミニレクチャー設定など),各診療科医局長・病棟長(病棟,指導医,上級医の決定),指導医(指導と評価),上級医(最近になって提示された実質的指導医,オーベン)が果たしている.
 来春以降には,学外医療機関,保健所などのご協力をもとに臨床研修プログラムが進行する予定であり,研修指導環境の整備と連携の充実が急務とされる.

三,臨床研修プログラム(日本医科大学付属病院の場合)

 今年度,研修を開始する前に一週間研修医オリエンテーションを実施,そのなかで基本手技(ストレッチャー,酸素投与,胃洗浄,導尿バルンカテなど),採血法,注射法,診療録記載,オーダリングなどについて講習,実習を行った.また,週末の終日をかけて,「救急患者への対応と心肺蘇生法(BLSとACLS)」を全員が研修したことは,有意義かつ有効であった.
 研修プログラムの一年目は,内科(第一から第四内科,老人科,集中治療室のうち三科を二カ月ずつ計六カ月),外科(第一または第二外科,救急センター,麻酔科をそれぞれ二カ月ずつ)をローテートする.基本的に二カ月単位でローテートするわけであり,研修医,指導医ともに頻繁に交代するストレスを,研修内容整理のための区分とリフレシュに転換することが望まれる.二年度には小児科,産婦人科(女性診療科),精神科,地域保健がそれぞれ二カ月あり,残る六カ月は各研修医が選択した診療科をローテートする.
 さらに,当院では,今春創設されたER室(夜間開設)でのプライマリケアも研修事項として組み込んでおり,それらの成果も期待される.

四,評価システム

 まだ,当院では実際的な評価が始まっていないが,UMINを介してPC画面上で研修医,指導医が双方向に研修事項細目について記録,評価(押しボタン式)するEPOCシステムが導入されており,その実際的効用が期待される.

五,今後の課題

 講座,医局制度と診療科が共存する現況の大学付属病院への新医師臨床研修制度導入に対して,現場の指導医,上級医,従来研修医(先輩医)は旧制度の優れた面を生かし,そして新制度に沿うよう鋭意工夫しながら研修指導を進めている.しかし,当初提示された週四十時間労働,当直明け休務,土日休日等々の研修医労働原則は,現今の大学病院診療環境との間に大きなギャップがある.
 大学病院の診療は,助手,上級医,研修医(オーベン付)の献身的診療活動により支えられてきたといっても過言ではない.また,各種カンファレンス,病棟症例検討会,疾患別検討会などは,通常早朝または夕刻以降に開催されており(勤務時間内には十分時間をとることが困難),問題提示と熱い討論が展開されている.研修医にとっても有意義な時間であり,もしこのまま本制度が続行するならば,今後の対応と工夫が必要であろう.
 もっと重要な課題は,新制度のもとに育っていく世代が,やがて指導層になっていくころのわが国の医療および診療環境の構築(への対策)である.

(日本医科大学内科学第一講座助教授 清野 精彦)

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