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第1035号(平成16年10月20日) |
スタートした新医師臨床研修
(研修病院の立場から)
四月には緊張して頬をつっぱらせていた新研修医が,八月の症例発表会では,集まった同僚や指導医の前で堂々と原発性免疫不全症の症例を報告し,質問に答えていた.短期間にたくましく成長したものだと感じられる.
研修費補助金の具体的内容が提示されないままにスタートした新医師臨床研修制度ではあるが,マッチング率も九五・六%と高く,順調に歩み始めたと思える.
大学病院から臨床研修病院へ
臨床研修病院で研修する研修医の率は,大学病院で研修する研修医の率に比較して,平成十三年度では二八・八%と低かったが,新医師臨床研修制度での平成十五年度マッチングシステムでは四一・二%(一・四倍増)に増加して,大学病院から臨床研修病院へと研修医の移動がみられた.プライマリ・ケアと患者中心の医療を目的とした新研修制度なので,当然の結果であろう.
東北地区では,この傾向がさらに進んで,臨床研修病院で研修する研修医の率は六五・八%,大学病院での率は三四・二%と,率に逆転がみられている(図).これから先二,三年は,この傾向が続くと思われる.新研修医は指導医の後につきながら,新しい知識の吸収と新しい体験の習得に生き生きとして励んでいる.
当院では,今年十九名の研修医を採用した.出身大学は十一校に及ぶが,彼らはよく混じり合って,出身大学の違いを感じさせる雰囲気は微塵もない.何でも学んでやろうという意欲に燃え,日々の新しい発見に喜びを表してくれる.
一部の大学病院は“たすきがけ”方式をとっている.許容研修医数の倍の数の研修医を採用し,その半数を協力型臨床研修病院に依頼する方式である.二年後における大学病院側の医師数確保を目的とした方策ではあるが,そのことだけではなく,大学病院と臨床研修病院との交流という意義も大きい.
当院では,三大学病院とたすきがけ方式を組み,計六名の研修医を受け入れている.双方の研修システムや研修内容の情報が交換され,指導医の交流や研修医の交流を通して,双方の研修内容が混じり合い,刺激し合って良い成果が上がるものと期待される.
旧医師臨床研修制度
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新医師臨床研修制度
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厚生労働省東北厚生局東北ブロック研修医マッチング説明会(平成16年7月10日)資料から |
研修費補助金と研修医の手当て
厚生労働省が,平成十六年二月に提示した臨床研修費補助金の概要は,(一)教育指導経費百十一億円,(二)導入円滑化特別加算六十億円である.しかし,補助金の具体的内容は,いまだ提示されていない.どちらの経費からも研修医に対して直接支給されるものはなく,経費として使えるのは病院の指導体制と教育設備のみである.研修医の給与が全部研修病院から支払われているという現状では,“良い医師を育てるため”として,研修制度を義務化した国の責任が感じられない.
プライマリ・ケアを勉強するには,宿直・日直による研修が必要である.厚生労働省は,“宿・日直研修事業を実施する上で支援が必要な病院”を特別加算対象病院とし,研修医の処遇が年額三百六十万円以下の研修病院としている.
平成十四年に文部科学省・厚生労働省が実施した“研修医の処遇状況に係る調査”によると,研修医一人当たりの平均手当ては臨床研修病院(私立三二・九万円/月,公的三〇・六,公立三〇・一,国立二〇・八),大学病院(私立一〇・六,公立一八・〇,国立二〇・四)となっている.この実状からすると,臨床研修病院の大部分は特別加算対象病院にはならない.研修医の宿・日直研修を国が推奨するからには,国からの支給があって当然と思われる.当院における一年次研修医の開始四カ月までの宿直回数は,内科系(十名)で平均一・二回/月,外科・救急・麻酔系(九名)で平均二・二回/月であった.月に五回宿直した研修医もいる.研修医の宿・日直手当てについては,研修病院にまかされているのが現状である.
指導医の処遇と指導医の教育
指導医の資格は“七年以上の臨床経験があり,プライマリ・ケアの指導能力を有し,指導時間が十分確保できること”となっている.しかし,外来,病棟の診療の合間に研修医を指導し,研修医と一緒に宿直し,研修医の評価をEPOC(オンライン臨床研修評価システム)の二百五十一項目に入力しなければならない指導医の仕事量は大変であり,指導時間が十分確保できるとは思えない.指導医の手当ては,研修費補助金の(一)教育指導経費のなかに当然含まれるものと考えられる.
研修医にとって良い研修が行われるためには,良い指導医が必要である.日医,医療研修推進財団等により指導医養成研修会が行われ,一定の成果が得られている.教育に熱心な臨床研修病院では,独自に海外から臨床研修教育者を招聘して指導医・研修医の教育を行っている.
当院でも,他院から数名の臨床指導医を三〜四回定期的に招いて,教育回診,教育講演,抗菌薬の使い方,胸部X線写真読影などの指導医・研修医教育を行っている.
指導医育成のための基準となる教育方法と,その評価方法,さらには臨床研修病院の評価方法を確立することが必要である.
診療所研修を地域保健・医療科目のなかで
研修二年次の必修科目として,一カ月以上の地域保健・医療の研修がある.保健所業務,在宅医療,介護老人保健施設などでの研修が計画されている.第一線医療で活躍し,教育に熱意のある診療所における研修を予定している研修病院もある.病診連携や医師会活動を理解するうえで有益な選択肢となろう.
(財団法人太田綜合病院附属太田西ノ内病院臨床研修プログラム責任者 粕川 禮司)
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