|
第1037号(平成16年11月20日) |
DPCの概要について
平成十五年四月より全国八十二の特定機能病院(大学病院,国立がんセンター,国立循環器病センター)の一般病床にDPC(Diagnosis Procedure
Combination)による包括的診療報酬制度が導入された.この制度は,急性期入院医療の診断群分類に基づく一日当たりの包括評価制度で,DRG(Diagnosis
Related Group)を日本流にアレンジしたものと解釈できる.
DPC導入の背景には,現行の出来高払い方式の診療報酬体系への批判がある.出来高払いの問題点として,(一)個々の診療行為にきめ細かく対応できるが,いわゆる過剰診療に傾きやすいこと,(二)医療技術評価や医療機関運営コストが必ずしも適切に反映されていないこと,(三)医療の質や効率性の評価が十分反映されないこと,などが挙げられている.
診断群分類の内容
診断群分類は,まず,十六の主要診断群(MDC:Major Diagnostic Category)と呼ばれる疾患分野ごと(例えばMDC1:神経系疾患,MDC2:眼科系疾患,MDC3:耳鼻咽喉科系疾患─など)に大別され,それぞれ傷病により分類される.傷病名は,医療資源を最も投入した傷病名をICD10のなかから対応するものを検索して決定する.医療資源を最も投入した傷病名とは,入院治療の全期間を通じて,最も人的・物的医療資源を投入した傷病であり,入院中に複数の傷病を治療した場合でも一つに限らなければならない.これが不明な時点では,入院の契機となった傷病に基づいて,診断群分類を決定する.
次に手術,処置などの診療行為,重症度等に基づく診断群分類を決定する.これらの作業には,包括評価の対象外となった診断群分類も含めて,全診断群分類を体系的に図示した「ツリー図」と,「ツリー図」の分岐の基準の定義を示した「定義テーブル」などを用いる.
DPC開始時には,五百七十五疾患に対し千八百六十分類であったが,本年四月の見直しで五百九十一疾患,千七百二十七分類に改められた.DPCの対象外となる症例としては,(一)入院二十四時間以内に死亡した患者,(二)生後七日以内の新生児の死亡,(三)治験の対象患者,(四)臓器移植患者の一部(皮膚移植,同種腎移植など),(五)高度先進医療の対象患者,(六)平成十六年改定で新たに保険適用となった技術を受けた患者の一部(乳腺腫瘍画像ガイド下吸引術,植込み型補助人工心臓など),(七)回復期リハビリテーション病棟入院料等の急性期以外の特定入院料の算定患者─などがある.
診断群分類ごとの一日当たりの点数は,在院日数に応じて逓減する仕組みとなっている.これは,診断群分類ごとに三段階の点数が設定され,入院日数の二五パーセンタイル値までは一五%加算,平均在院日数以降は,逆に一五%減算する仕組みである.ただし,平均在院日数から標準偏差の二倍以上入院した日以降は,出来高により算定することになっている.
DPCにおける診療報酬額は,包括評価部分と出来高部分で構成されている.出来高部分としては,手術料,麻酔料,千点以上の処置料など,ドクターフィー的要素が算定できるが,包括評価部分には,入院基本料や検査(内視鏡検査,病理検査などを除く),投薬,注射,千点未満の処置などが含まれ,診断群分類ごとの一日当たりの点数×医療機関係数×入院日数で支払われる.医療機関係数には,機能評価係数と調整係数があり,病院ごとに,紹介率などの病院機能の評価と,前年度実績を担保する調整が行われる.
DPCの問題点
DPCの問題点としては,包括評価の一般的課題であるレセプトでの診療内容のチェックが難しくなることや,経営面を重視されると過小診療に傾く可能性があること,負担の大きい検査などが外来へシフトすること,一件当たりでなく,一日当たりの定額であるため,平均在院日数短縮や医療費削減効果が,やや低い傾向にあること,調整係数による激変緩和措置が,今まで効率的医療に努めてきた医療機関を逆評価しかねないこと─などが挙げられる.
一方,DPC導入には,平均在院日数短縮に向けて,クリニカルパスの利用促進やレセプト作成および審査の事務量軽減などの利点もあり,また,平成十五年度では,出来高方式と比較して三%の増収となったことから,手上げ方式による民間施設等へのDPC導入の試行には,九十二施設が参加することになった.
いずれにせよ,財政的視点で導入されたDPCには,さまざまなモラルハザードを生む要素もあり,医療の質や患者の視点での検討も必要である.現在,中医協の診療報酬調査専門組織DPC評価分科会において,患者満足度等を含む調査検討が行われており,その結果が待たれるところである.
(日本医師会常任理事 三上裕司)
|