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第1049号(平成17年5月20日) |
安全医療を考える―信頼される医療を目指して―
今日,医療側に求められている医療とは,安全と安心に支えられた信頼される医療である.
安全医療とは事故のない医療,安心医療とは質の高い医療のことであるが,先進医療だからといって事故は許されない.
事故発生の背景
事故誘因には二型がある.
一,組織のミス
病院の安全管理体制は総合病院ではほぼ整備され,あとはたゆみない活動が待たれる.
二,個人のミス
医師個人のミスをなくすのは難しい.次の四点をみても簡単に解決できる問題ではない.
a,医療知識が不足
b,医療技術が未熟
c,うっかりミス,勘違いなど
d,懈怠,杜撰,不誠実など
前二者は日進月歩の医療に追い付けないためであり,後二者は人間から抜け出せないからである.
事故防止の対策
対策が簡単なら,事故などはとうの昔に防止できているはずであるが,それでも以下の対策は欠かせない.
一,教育は必須である
他科の疾患ならいざ知らず,専門分野でさえ知らないことは多い.耳学問を馬鹿にせず,講演会には,何はさておき出席する.実践にも勝る知識が得られるからである.その気運は高まっている.
二,実習に参加する
新しい技術は頭ではなく,腕で覚える.指導者のもとで手を動かし,指を使い,慣れることである.患者さんで練習すれば,どんな結末になるかは,昨今のニュースでお分かりであろう.
三,ペアで診療する
うっかりミスや勘違いを,「しっかりせい」と怒鳴ってみても始まらない.「To Error is Human」なら,一人の注意より二人の注意で対処するしかない.今はチーム医療やグループ診療の時代であるが,外来診療や重症回診も,大学病院に倣ってペアで行うように改めるべきである.少なくとも裁判所では左右陪席制度を取っている.
四,勤務時間を守る
当然のことを強調するのもおかしいが,それほどに不思議な医師の勤務態勢である.祝日の当直勤務をしても,重症患者の夜間診療をしても,夜間の緊急手術に呼び出されても,翌日は通常勤務という悪習は,今もって直らない.これが不誠実等の一因とする事例は多い.しかし,この不思議にだれも無関心である.
事故予見の学習
事故は起こるものとして,その直前に食い止める手法を考える.
一,合併症を分析する
医師からはインシデント報告は出ないといわれるが,合併症報告なら出せる.これを収集,整理,分析すれば,合併症の予見に役立ち,発症を減少させ得るものと考える.
二,事故事例から学ぶ
医療事故は医師にとっても残念な出来事であるが,反省だけで済ませるのではなく,学習し再発防止を図ることが重要である.かかる安全文化の確立こそが,患者さん側への誠意ある対応にほかならない.
説明から会話へ
それでも医療から事故はなくせない.医療に存在する残留リスクをどうするのか,それは医師と患者さんとで共有するしかあるまい.
一,会話を重視する
説明は,いまだ,「いった」「聞かなかった」の繰り返しであり,医事紛争のネタでしかない.話を一方通行で終わらすのではなく,対面通行に広げるには,会話が良い.説明とは会話を導き出す手法,リスクを共有する手段という考えに意識改革してほしい.
二,共感する医療を目指す
共感する医療とは,「病気治療に立ち向かう医師の情熱に感動し,病魔克服に立ち向かう患者さんの闘魂に感動する医療」をいう.会話をとおして相手の心をひもとけば,そこには共感する医療が芽生え,信頼される医療が育つであろう.
まとめ
安心のうえに安全を積み上げることは大変であるが,「患者中心(patient centered)」という全人医療を掲げる私たちには,越せない障害ではない.なぜなら,私たちの先輩は恵まれない医療状況のなかで世界一の長寿国を築いたからであり,私たちは,その伝統を受け継ぐ後輩だからである.
〈追記〉図に大阪府医師会開催(本年二月五日)の医療安全推進指導者講習会での教育に関するアンケート結果を示す.
(大城 孟 大阪府医師会医療安全推進委員会委員長)
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