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第1051号(平成17年6月20日) |
個人情報保護法について
平成十七年四月一日,個人情報の保護に関する法律(以下,個人情報保護法)が全面施行され,すでに三カ月近くが経とうとしている.
本稿では,同法と医療の関わりについて,勤務医と関係の深い問題に焦点を絞って論じる.
医療と個人情報保護
個人情報保護法は,現代社会のさまざまな場面で利用されている個人情報を,より安全かつ適切に利用していくこと,すなわち「個人情報の保護と利活用」を目的に制定された法律である.
医療機関では,患者さんの診療録,検査結果,診断用画像,健康保険関係の記録など,個人を特定できる無数の情報が作成,利用,保管されている.しかも,それらの情報は,患者さんの疾病や身体,家族歴などに関する極めて秘匿性の高い内容を含む.
当然,医療機関で働くすべての関係者は,従来から,これらの情報の取り扱いには細心の注意を払ってきたところであり,また,ほとんどの医療関連職種には,それぞれの資格法あるいは刑法などで,守秘義務が課されてきた.
このようななかで,あらゆる事業分野を対象とする個人情報保護法が制定され,医療機関も同法にいう個人情報取扱事業者と位置付けられた.
事業者には主な義務として,(1)個人情報の取得に当たり,利用目的を本人に通知(2)利用目的の範囲内での情報の利用(3)本人同意のない第三者への情報提供禁止(4)情報漏えい防止のための安全管理措置(5)本人からの開示・訂正・削除・利用停止等の請求への対応等が課されている.
厚生労働省ガイドラインの制定
個人情報のなかでも,とりわけ秘匿性の高い情報を取り扱う,医療,金融・信用,情報通信の三分野については,同法案の国会審議に際し,別途個人情報保護に関する個別法のあり方を早急に議論すべきことが付帯決議された.
これを受けて厚生労働省は,「医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会」(座長:樋口範雄東大法学部教授)を設置し,医療分野の個別法のあり方ならびに個人情報保護法の医療分野への具体的な適用方策について審議した.
その結果,平成十六年十二月,「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」が厚労省から通知され,一方,個別法の問題に関しては,当面は同ガイドラインの実施状況等を見極めることが適当であるとの理由から,医療分野の個別法の制定は見送られることとなった.
日医「医療機関における個人情報の保護」の作成
厚労省によるガイドライン策定作業と並行して,日医では会員の医療機関が取り組むべき内容や,各種書式等を盛り込んだ解説書「医療機関における個人情報の保護」を作成し,『日医雑誌』三月十五日号に同封して全会員に配布した.
同解説書は,日医内の医事法関係検討委員会と「診療情報の提供に関する指針」検討委員会の合同委員会(委員長:村山博良高知県医師会長)において起草され,日医が刊行したものである.記述の内容については,法令および厚労省ガイドラインに準拠することを第一とし,信頼性の高い資料となるよう努めた.各医療機関で取り組みを検討される際には,まず,この解説書をご一読いただきたい.
院内掲示ポスターの配布
解説書の送付に際しては,個人情報の利用目的を患者さんに理解していただくための院内掲示用ポスターも同封した.同法によれば個人情報取扱事業者は,個人情報の取得に際して,あらかじめ利用目的を公表しておく必要があり(同法第十八条一項),その方法の一つとして,医療機関では,待合室など,院内で患者さんの目に留まりやすい場所に,個人情報の利用目的を明記したポスターを掲出することが推奨されている(厚労省ガイドライン十二〜十三頁参照).
日医のポスターは,一般的な医療機関における利用目的を盛り込んだモデルとして作成し,各会員に一枚ずつ配布したものである.ポスターを受け取られた勤務医の会員におかれては,勤務先医療機関に掲出用として提供するなど,有効にご活用いただきたい.
院内体制の見直し
法律の全面施行から約三カ月が経過した現在,各医療機関では,多くの問題点や疑問が生じているものと思われる.
今後は,これらの問題点を各医療機関の内外で検討し,患者さんの個人情報の取り扱いばかりでなく,日常診療における患者対応,安全対策など,院内体制全般を改めて点検する契機と捉えていただくよう,お願いする.その際には,診療の最前線で患者さんと接する,一人でも多くのスタッフの積極的な参画と問題提起が,取り組みを成功させる鍵になると信じる.
(日医常任理事 松原謙二)
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