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第1053号(平成17年7月20日) |
女性医師の働き方
―産休・育休について
現在,厚生労働省では,「医師の需給に関する検討会」を設置し,適正な医師数を検討しているが,医療現場では医師の不足,とりわけ地域格差や診療科別偏在が大きく,深刻な問題になっている.
医師の需給問題にはいろいろな要因がかかわっているが,女性医師の増加もその一つである.
平成十四年の統計では,医師総数に占める女性医師の割合は一五・七%であるが,医師国家試験合格者における女性の割合は,平成十七年には三三・七%に達している(図).今後もその割合は増えていくであろうと予測され,医療の現場ではすでに第一線で活躍し,大きな力となっている.
図 医師国家試験合格者の男女比 |
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しかし,欧米諸国に比べると,その就業率は,三十歳代になると急に減少し,六〇%台に落ち込むという.結婚・出産・育児を経て,仕事と子育ての両立に苦慮している姿が浮かび上がってくる.
その結果として,もともと,女性医師の比率が高いとされる産婦人科や小児科では深刻な医師不足が生じることになり,さらには,同僚医師への負担増という形で男性医師にも影響を及ぼすことになる.
仕事を続けていくためには
さて,それでは女性医師が,そのライフスタイルのなかで重要な位置を占める出産や育児を経て,さらに仕事を続けていくためには何が求められているのであろうか.
これについては,各種のアンケート調査が行われ,報告されている.日本小児科学会では,平成十五年十二月から翌年一月にかけて小児科医師現状調査を行い,以下の解決すべき三つの課題を提示している.
具体的には,(1)子育て支援(保育園の充実,保育施設やベビーシッターなどの利用可能なシステムの情報提供の充実)(2)勤務制度の改善(勤務形態の多様性,再雇用支援制度,フレックス制度導入,チーム医療の充実促進)(3)生涯教育,再教育の支援(ネット活用による遠隔教育での学会参加を認める制度)などである.
なかでも,子育て支援に求められる第一歩は,出産休暇・育児休業制度を取得しやすいものにするということであろう.産休・育休制度は法制度としては確立されていても,その間の代替要員確保のシステムもなく,その後,職場復帰しようとした時にも以前のポストが保証されているとは限らない.これでは,法の整備は進んでも,制度の活用は難しいといわざるを得ない.
良質な医療の提供のために
さらには,制度の活用以前の問題として,平成十六年度より開始された新医師臨床研修制度では,産休・育休による中断についての規定が示されていない.厚労省による「臨床研修に関する省令」には,研修の中断および再開の項目が設けられているが,出産・産休の事由による場合は明示されていないのである.
臨床研修期間は,女性医師の出産適齢の時期にも重なっており,出産を経ながらも継続して臨床研修を遂行できるような制度が早急に整備されなければならない.
日医女性会員懇談会では,この件について,平成十七年二月に植松治雄会長に要望書を提出している.内容は,女性研修医が産休を取得した期間中の身分保証や研修再開時の研修継続の保証などについて,厚労省令に明記するよう厚労省に働きかけることを求めたものである.現在,医道審議会医師分科会医師臨床研修部会では,研修修了基準とともに研修休止の項目を審議・検討中であるが,妊娠・出産による休止についても明記される予定となっている.
女性医師は,その労働環境を自分の問題として取り組み,応分の負担を負っていくという自覚のもとに,それぞれが声をあげていかなければならない.これは単に,女性医師の問題にとどまるものではなく,医師全体の労働環境の整備につながり,ひいては,良質の医療の提供につながっていくのである.
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