日医ニュース
日医ニュース目次 第1055号(平成17年8月20日)

勤務医のページ

2年目の地域医療研修
―現場の状況―

 平成十六年四月一日から実施された新医師臨床研修制度は,今年より二年目に入り,多くの施設では地域保健,医療分野の研修が行われる.
 学生時代にインターン廃止運動にかかわった世代の私も,改めて研修医制度について考えさせられた.昭和四十三年,学生運動などがきっかけとなりインターン制度は廃止されたが,努力義務として研修内容や経済的保障が解決されないまま続いた.医療の細分化・専門化は,“一般的な疾病をしっかりと診てくれる医師を”という国民の声との間にギャップを生じ,医療不信に通じていることも事実である.新たな研修医制度は,幅広い分野における基本的臨床能力を修得することで再出発した.

岩手県立病院の現状

 岩手県には十四の管理型研修病院があり,協力病院を含めて二十七の県立病院すべてが臨床研修病院群に参加している.県立病院は地域医療の確保を設立理念とし,連携ネットワークの推進で,初期医療から救急,高度医療まで行っており,研修目標を達成できる適切な研修施設である.
 さらに,医師不足に困窮している県立病院,特に小規模病院の研修制度への参加は,将来の医師充足を改善できる要因になる.

東和病院の現状

 医療保健福祉との連携を掲げ,東和町ライフケアセンター(保健センター,老人保健施設)と一体的整備がなされている.「地域住民から頼りにされる病院」を基本理念とする七十一床の小規模病院で,病院機能評価ISO14001の認証取得をしている.
 平成十五年から新医師臨床研修制度を先取る形で地域研修を行ってきた県立中央病院の二年目の研修医に,一カ月交代でプライマリ・ケアの研修を担当してきた(平成十五,十六年各四人).今年からは小規模病院での地域医療研修の充実が図られ,二カ月の地域研修となり,当院では,今年度は五人を予定している.
 さらに岩手医科大学,県立北上病院から一カ月の研修プログラムで地域研修を引き受けている.

研修医からの評価

 今年度からスタートした二カ月の地域研修で,東和病院でのプログラムは基本的には今までと変わりはない.そこで平成十五,十六年の二年間,八人による研修医からの指導医評価表より,当院の現状を直視してみた.
 レポートから見ると(),地域病院の臨床医としての知識技能態度は良好であり,ロールモデルとしての役割を担えるだろう.常勤医四人全員が指導医講習会をすでに受けていたことも一因ではないか.
 一方,指導力や指導姿勢は前者に比べてやや低い傾向にあった.研修プログラムの内容に沿った指導を行っているかについては,判定不能が一人いた.プログラムの内容が多少具体性に欠けていたり,さらには一カ月では地域包括医療の研修が不十分だったかも知れない.今年からは二カ月の地域研修となったこと,研修内容,方法を具体的に示したことで,改善が図られることを期待したい.
 患者家族の面接,インフォームド・コンセントについての指導や,比較的病状の安定した慢性期の患者さんや高齢者のケアは,短期間の研修では困難かも知れない.
 次に,表には示していないが,研修でよかったことは,主治医として入院から退院までかかわることができ,さらには必要な検査治療についても指導を受け実践できたことをはじめとして,特定の分野に偏らず短期間で万遍なく患者さんを診られたこと,外来診療の経験,地域特性ともいえるハチアレルギーの治療経験等が挙げられていた.さらには,一カ月では研修不足との意見もみられた.

表 研修医に対するレポート

選ばれる病院を目指して

 「地域医療研修」を担える病院として研鑽を積み,研修指定病院や研修医から選ばれる病院を目指したい.研修医も医師数にカウントでき,医師不足に悩んでいる過疎地の小規模病院にとっては大きな朗報でもある.
 さらには,若い医師のなかから地域住民のニーズに応えられる医師が増えることを願って,医師の育成に一役買いたい.
 最後に,プライマリ・ケアを重視した新医師臨床研修制度の成功には,勤務医のみではなく,医師会員,行政すべての総力が肝要だろう.

(岩手県立東和病院長 斎藤勝彦)

 管理型病院長のコメント:研修医が,地域医療研修レポートに「今まで見てきた専門的急性期医療は,その患者さんの一生の一時期でしかなく,その後の慢性期,介護,リハビリテーションが人生の大部分であり,予防を含めて全人的医療の尊さがよく分かった」と,カルチャーショックを受けて戻ってくる.すでに後期研修として地域医療包括ケア医を目指している研修医も残った.専門医を一〜二年差で促成栽培する必要はない.地域の小病院でも,指導医の情熱があれば十分なロールモデルとなることを,全国医師は再認識する必要がある.

(岩手県立中央病院長 樋口 紘)

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