日医ニュース
日医ニュース目次 第1057号(平成17年9月20日)

勤務医のページ

勤務医過重労働と開業(診療所)増加問題について

勤務医不足と開業のお薦め

 現在,地方都市や郡部における勤務医の不足は深刻である.このまま正しい施策が行われない限り,地域医療の崩壊は,もはや現実のものとなりつつある.勤務医不足問題を考えるなかで,昨今注目すべき現象としての開業(診療所)増加問題を取り上げてみたい.
 私は勤務医である.ときどきDM(開業のお手伝いと称する)が送られてくる.いきなり何駅近く何々メディカルビルが建ちますので云々といった調子である.
 インターネットで検索しただけでも,膨大な数の会社・企業が名乗りを上げ,魅惑的な(絶対失敗しないかのような)宣伝を行っている.勤務医がいとも簡単に開業に成功できそうな,“万事おまかせください”の調子である.この誘惑に,全国でどのくらいの勤務医が引き込まれているのであろうか.

開業によって起きる問題

 開業の増加が引き起こし得る問題としては,次の点が挙げられる.
 (1)地域病院にとっては,自院の勤務医が開業した場合,その補充(特に医局派遣)が簡単にはつかないこと(2)二次医療圏内の地域医療計画には,この診療所の配分(病院の病床数は厳しい規制の反面)は考慮外で,地元医師会とは無関係である(3)経営上の条件で,都市部などに集中する(4)今後開業は大変になるから「今のうち」といって比較的若年の世代(病院の働き手)のトレンドとなっている(5)病院に残った勤務医には医師不足の負担がますますのしかかり,疲弊するために勤務医を辞めるインセンティブとなる(開業の促進化)(6)診療所の過当競争を引き起こす.

開業医の増加,勤務医の減少

 年間,新規開業が四千〜五千件ともいわれているが,プライベートな要素もあり,真の実態を示す正確なデータは見つけにくい.医師数全体は毎年上昇し続け,人口十万人当たり二百六人(平成十四年)を超えて医師過剰になるといわれた.しかし,平成十五〜十七年と医師不足問題が深刻化してきた.
 OECD(経済協力開発機構)のデータで,諸外国の医師数と比較して日本がいかに少ないかは周知のことであるが,医師数が増加していることは確かである.平成十年と平成十四年の五年間の比較では,病院勤務医が十五万三千百人から十五万九千百三十一人(六千三十一人増),診療所医師が八万三千八百三十三人から九万四百四十三人(六千六百十人増)と,同数程度増加している.しかし,あえていえば,診療所医師数の方がより増加している.
 さらに,その内訳として,四十歳未満の医師数では病院勤務医が八万五千六百七十一人から八万二千九百十二人と二千七百五十九人も減少しているのに対して,診療所医師は七千二百三十四人から七千三百八十人と,わずかながらも増加している.高齢医師のリタイアを考慮すれば,勤務医の働き盛りの世代での不足は,全体の数字以上に卑近なものと感じられることとなる.
 また,医育機関付属病院勤務医数は,平成十四年も四万三千百三十八人で,何年もほとんど変化がない.これでは専門分化が拡大し,マンパワーを必要とする大学にも常に人が不足することになる.

勤務医はいずこへ

 全国の一般病床数は年々減少しており,勤務医数がそれなりに増加しているにもかかわらず,勤務医不足と過重労働感が解消しないのは,どこに問題があるのだろうか.若年勤務医の開業増加は,個人生活の幸せを優先する社会風潮のなかでは,“当然”と受け入れてよいのであろうか.
 地域医師会は,少なくとも公共性をふまえて医療を生業とする医師の集団である.業者の誘導を前提とした,経営目的の開業は,地域医療に混乱や軋轢を来しかねない.
 一方で,開業による勤務医減員は病院機能を低下させ,地域医療や地域住民にとっては大変な痛手となる.のみならず,残った勤務医にさらなる過重労働をもたらし,揚げ句の果てにバーンアウトによる開業という末につながりかねない.
 勤務医が不足し,その労働環境が悪化すると,「個人の幸せを求めて」の開業は増加するという図式は,今後も解消しないであろう.

解決への道は

 今日の細分化され専門化した,範囲の拡大した医療現場のニーズを満たすためには,大都市部の大学病院にも地方の地域病院にも医師が不足している.
 医師の絶対数を増やすことでワークシェアを成立させ,勤務医の環境を改善しない限り,公の地域医療計画とは無関係の開業が後を絶たないと思われる.
 日医としても,勤務医不足問題は,一方で開業増加問題と密接にリンクしていることを認識する必要があると考える.

(静岡県医師会理事,三島社会保険病院副院長 武井秀憲)

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