日医ニュース
日医ニュース目次 第1061号(平成17年11月20日)

勤務医のページ

座談会(第2回)
医療環境変革期における勤務医の役割

勤務医のページ/座談会(第2回)/医療環境変革期における勤務医の役割(写真)医政(医療政策)への関与

 池田 次に医政(医療政策)についてですが,勤務医は臨床のことには一生懸命ですが,あまりこの辺のことは学んでいないのではないかと思いますが,いかがですか.
 内藤 東京都医師会の勤務医委員会で行ったアンケート調査では,勤務医に不満や不安が多いのです.それを勤務医委員会で取り上げても,勤務医が制度を知らないことが問題を解決できないことにつながっているのではないでしょうか.
 混合診療に関しても,医師会の考えを知らないで,雑誌レベルで耳に入れたことをそのまま鵜呑みにしてものを考えてしまっていることが,結構あるのではないかと思います.
 湧田 病院のなかで個々の先生方と話をすると,聞きかじったようなことは知っていて,それでちょっとした誤解のような形で発言をされることが多いですね.
 医政というか政策的なことに耳を貸すところまで余裕がありません.ここ数年,だんだん職場の環境が厳しくなってきて,院内に委員会がたくさんできて,外に出にくくなっているというのが現状ではないかと思います.
 ですから,医師会の活動を無視しているという意味ではなくて,興味はあって何とかしたいという人もいるし,理解しようという気持ちもあるのですが,勉強する時間がない.それをいちばん切実に感じます.
 浜本 一般的な印象として,上のほうの先生を除いて,ほとんど医師会活動に興味がないといったほうがいいでしょうね.
 今,急性期病院の労働条件はものすごく苛酷で,毎日の仕事を何とかこなすのに追われて,余裕がないですね.医療政策そのものに興味を持って取り組むのは,なかなか難しいのではないかという気がします.
 田中 私自身はそういう問題には疎かったのですが,今回,このテーマを見てちょっと勉強してみたのです.関心がないというよりも,そこまで気持ちも時間も余裕がないですし,必要に迫られていない分だけ自分の問題として考えにくいのかなと思います.
 山田 最近思うのは,厚生労働省の政策誘導能力が非常に落ちたということです.その根源は,一律三割負担だと思います.
 開業の先生から紹介状をもらって,大学病院へという制度を作ったところで,実際問題として患者さんの自己負担が非常に増えてしまい,紹介状をもらわずに行った方が結局安いということになって,厚労省が意図したようにならないですね.
 去年の混合診療の話は,変えたい側と変えたくない側が,それぞれ自分のいいたいことを主張しただけで,ほとんど話の接点がない.これはマスコミの論調しか私は知らないのですが,全体的にだれにも理解されない議論で終わってしまったのではないかという気がします.
 池田 すべて長所だけとか,短所だけとかというものはないのですが,トータルとしてみると,やはり混合診療ではいろいろ大きな欠点があり,将来の医療制度の根幹を揺るがすようなことになるので,医師会は反対しています.
 三割負担についても日医は強く反対したのですが,勤務医の先生方がついてこなかった.一致団結して事に当たれば,三割負担は実現しなかったかも知れないという気持ちはあります.
 三上 医師会は診療所の代表であって,病院のことはあまり考えてくれないという風潮があります.医師会はすべての医師の代表ということをよく分かっていただきたいということと,病院のこと,あるいは勤務医の勤務条件,労働条件等を改善したいということになると,そのいちばんの力は選挙による政治力ということです.以前は百万票を超える医師会の集票能力があったということですが,今は二十五万票程度で,われわれがいくら良いことをいっても,なかなか通されない.特に,経済財政諮問会議のような財政主導の,いわゆるアメリカ追随型のものにどんどん流されていって,社会保障が削られる.
 ですから,勤務医の方々が政治にも関心を持って参加し,主張してくださることが大切で,医師会が何を考えているのかを見ていただきたいと思っています.
 山田 勤務医にとっては,はっきりいって「医師会とは何ぞや」という世界なので,まず票集めをすることの意義を上から下に伝えていく道筋をもっと作らないと,この問題は勤務医部会では解決できないのではないかと思います.
 湧田 大きい病院は医師会の加入率が悪く,病院内で医政について話し合うという風土がないのではないかと感じます.小さいところでは割に,いろいろなことについて情報交換,話し合いがなされているのではないかと思います.
 内藤 数年前は患者さんにお金について聞かれることはほとんどなかったと思うのですが,最近は非常によく聞かれるし,会計のところで「何でこんなに高いんだ」というトラブルがあります.
 それは実際,診療しているわれわれのところに,政治の問題が顔を出してきた証拠ではないでしょうか.大学にいたときには,あまり関心がなかったのですけれども,時代が変わって,それに関心を持ち,自分の思う医療を進めていくためには,そういった情報まで患者さんに提供しなければいけない環境になってきました.
 われわれ勤務医も,医師会活動ということではなくて,今,日本の医療がどのように成り立っているかということについて,興味を持たなければいけない時期にきているのではないかと思います.
 できれば医師会がそこに入ってきて,勤務医に情報を提供する方法を考えていただきたいです.
 湧田 もし診療報酬が三%下がれば,給料も三%下がりますよといったら,勤務医は政治に興味を示すどころではなく積極的に参加すると思うのです.
 それを経営陣が苦労して,現場の人には影響がないように給料を払っているわけですが,その辺を十分に理解していないというところがあると思うのです.経営を通して自分たちの仕事がどのように評価されているかということを,もう少し考えていかないといけないと思います.
 田中 私は以前,ほかの企業で七年間仕事をしていました.その時にも考えたのですが,広報活動というのは,広報する側が,例えば,会報を発行して,一生懸命伝えたつもりになっていても,それを受け取る側は全然知らないといったことがほとんどなのですね.その辺りの方法というのは,これからの課題なのかなという気がします.

勤務医座談会 出席者

(司会)
池田俊彦(日医勤務医委員会委員長・福岡県医師会副会長)
田中俊江(麻生飯塚病院研修医)
内藤博邦(医療法人内藤病院副院長)
浜本隆一(松江赤十字病院副院長)
山田 仁(医仁会武田総合病院泌尿器科手術部長)
湧田幸雄(済生会山口総合病院副院長)
三上裕司(日医常任理事)

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.