|
第1063号(平成17年12月20日) |
座談会(第3回)
医療環境変革期における勤務医の役割
医局制度について
池田 医局制度について多方面から議論を願えればと思います.
浜本 最近,医師派遣の窓口を作っている大学病院が多いのではないかと思います.鳥取大学も窓口を作られたのですけれども,実際には機能していないのです.昔と一緒で,病院長が教室と交渉して人事が決まるところがずっと残っています.
山田 医局講座制については,医局制度が悪いとのマスコミの論調が,いま一つピンとこなかったのです.
例えば,京都では北部地域と南部地域では医療の状況は非常に違いますけれども,医局が機能しているから,医師を過不足なく行き渡らせることができたのだろうと思うのです.
逆に,新医師臨床研修制度が始まってから,京都の北部地域に研修医はほとんど行っていないというのが現実です.
いずれにしても,医局というか,教授が権限を持って,その采配で半強制的に人を配置するという,普通の企業では当たり前のことで,全体のバランスは取れている.それが今,崩れるかどうかということがいちばんの関心事です.
湧田 私は専門が脳神経外科なのですけれども,特に,新医師臨床研修制度が始まって,全国的に脳神経外科医が少し減ってきて,関連病院を整理していかざるを得ないというのが医局の実情です.完全に医局の考えでローテーションするというのもまずいだろうし,かといって病院にそのまま残って医師が動かないというのも,病院そのものが高齢化していって活性化しない状態になってきます.
長い目で見ると,ある程度ローテーションして,いろいろな地域で診療して勉強していくということは大事だし,大学のような組織のなかでやっていく機会も残しておく必要はあると思っています.
浜本 地方の大学では医局に人材が入ってきませんから,危機感があります.新医師臨床研修制度の影響が大きかったと思うのですけれども,三年目からのいわゆる後期研修が始まったときに,その先生方が大学に戻られる数をある程度確保できるのか,そこにおそらく医局が生き残るかどうかもかかってくるような気がしているのです.確保できないということになると,周辺の病院に影響が出ます.
地方の病院は,医局を残してもらった方がよいと思っているのではないかと思います.
内藤 東京には大学病院がたくさんありますが,若い先生がバイトに出てこなくなったので,一般病院は当直のやりくりが全然できない状態になっています.
そこで何が起きているかというと,民間医局というものが出てきて,そこに申し込むと医師を斡旋してくれるのです.斡旋ということは中間マージンを取っているところもあるので,医局制度がよいかどうかはともかくとして,ある程度大学側に人事をまとめる場所がないと,そういったところがどんどん出てくる可能性があります.
田中 飯塚病院で研修医が一年目を終わるころにアンケートをとったのですけれども,二年の研修が終わった直後ではなくても,いつの時点かで大学に帰りたいと考えている人は少なくないと思います.
外科系に進みたい人,先進医療をしたい人,あるいは研究をやりたいと思っている人の場合は,大学で学ぶメリットも大きいのではないでしょうか.若い医師が大学に残らなかったといわれていますけれども,今は過渡期なので,あと何年か経つと少し状況が変わるのかなという感じはしているのです.
山田 初期研修が終了した時点で,どの程度戻るかというと,外に出たうちの半分はまず大学に戻るだろうと,そして卒後五年ないし六年,いわゆる後期研修が終わるころには,一割程度が外に残るのではないかという推測で,現在,動いているのです.
そうやって九割戻ってしまうと,数的に元の医局制度に戻るわけです.一方で,国立大学病院が独立行政法人化してしまって,採算性を考えて研修医の枠が昔ほど取れていない.そうすると,関連病院へ人材を派遣できなくなってくるだろうというのが,いちばんの問題です.
いわゆる後期研修をどれだけ受けられるかということを,実際構想しているところは,今,見る限り,まだほとんどないですね.それが出揃うのはたぶん秋ごろになるので,そのころからやっと医局制度が以前のように復活するのかどうかが見えてくると思います.
内藤 二年の研修が終わって大学に戻っても,生活できませんね.現在研修病院では月三十万円くらい出ていますけれども,大学に戻ってみたら,より苛酷な条件で働いて月五万円くらいでは,我慢できるかなと思います.
大学病院では,下手をすると研修医のほうが大学から出ている給料が多い.そこをどうやって埋めているかというと,夜勤のバイトとか,当直に行っているわけです.そうすると体力的に厳しくなってくる.当然,医療事故につながる可能性があるので,バイトに出ていくことはルール上なしにしてほしいという意見もあるのですが,それだと生活は成り立たないですね.
山田 私たちはそういう生活をしてきたから当たり前だと思っていますが,新医師臨床研修制度のなかにいる人たちにとっては,それは決して容認できるものではないだろうから,それを施設側がどのように判断するか,非常に難しいですね.
湧田 中堅の医師は,新医師臨床研修制度により地域の病院に多くの研修医が来て,そこに就職してポジションを埋めてしまうと,これからは自分たちのポジションがなくなってしまうのではないかという不安を持っています.ですから,今のうちに良いところに就職してしまいたいと.そうすると,現在までは医局のローテーションで回っていたポストがなくなりますから,断るケースが出てきて,医局と軋轢が生じてきます.
山田 人事が硬直化すると,能力の高い人だけを囲うようになって,そうでない人があぶれていくという厳しい世の中になっていくと思います.椅子取りゲームではないけれども,とにかく座って,そこで人生を終えるのがいちばん楽ということになっていく恐れは非常に高いですね.
池田 よそで研修してくると,その人の質が分からないですね.キャリアパスのようなものがないと難しいという話が勤務医委員会で出たのですが,だれがそれをオーソライズするのかということになると,難しい話になりますね.
勤務医座談会 出席者
(司会)
池田俊彦(日医勤務医委員会委員長・福岡県医師会副会長)
田中俊江(麻生飯塚病院研修医)
内藤博邦(医療法人内藤病院副院長)
浜本隆一(松江赤十字病院副院長)
山田 仁(医仁会武田総合病院泌尿器科手術部長)
湧田幸雄(済生会山口総合病院副院長)
三上裕司(日医常任理事)
|
|