日医ニュース
日医ニュース目次 第1077号(平成18年7月20日)

勤務医のページ

臨床研修修了後の医師の教育(大学病院)

後期研修医の誕生と医師不足の状況

 平成十八年四月,新医師臨床研修制度による二年間の初期研修を終えた第一期生が誕生した.新たな後期研修医の動向に各界の注目が集まっている.
 今回導入された新研修制度は,「すべての医師にプライマリケアに対応できる初期臨床能力を涵養する」「研修医に対する処遇を確保する」を主な目的として導入されたもので,その趣旨は大変に結構なことである.
 しかし,周知のとおり,本制度の導入以降,研修医の大学離れが加速し,大学医局の医師引き上げ,派遣の中断,その結果として,深刻な地域の医師不足と医療の崩壊状態が惹起されつつある.さらに,大都会においても,診療科の偏在,厳しい診療科に対する研修希望者の減少,勤務医の過重労働,さらには,若年層での開業志向にも拍車がかかっており,事態は急速に悪化の一途を辿っているように思われる.

後期研修医に関するアンケート結果

 折しも,平成十八年五月に開催された全国医学部長病院長会議の定例総会において,全国医科大学を対象とした後期研修に関するアンケート調査結果が発表された.
 それによると,今年(平成十八年),初期研修を終えて大学での後期研修を開始した医師は,卒業生の五一・二%で,制度導入二年前(平成十四年度)の大学での研修希望者の割合七二・一%に比べ,二〇・九ポイントの減少となっている.
 地域別に見ると,四国では四三・八%減,北海道では四二・三%減,中国三七・一%減,東北三一・〇%減の順で,過疎地域での減少傾向が著しい.しかも同じ九州地区や中部地区のなかでも,人口五十万人以上の都市を有する中・大都市圏では五・五%減に対し,五十万人以下の人口しかない小都市圏では四二・四%の減少となっており,小都市圏での減少が著明である.
 さらに診療科別に見ると,脳神経外科四二・三%減,外科三二・八%減,小児科二八・一%減,整形外科二七・二%減,産婦人科一八・五%減,救急ほか一六・九%減など,小児科とともに外科系の各診療科での減少が著しい.増加については,形成外科四〇・九%増,皮膚科二三・六%増,麻酔科二三・二%増など,時間的に比較的余裕があると思われる診療科で増加傾向にある.(図)

図 診療料別増減 平成18年研修修了大学帰学者/平成14年卒業者
出典:全国医学部長病院長会議「地域医療に関する専門委員会報告」より

 同時期に行った別のアンケート調査結果では,制度導入の初年度(平成十六年)に大学での研修を希望した研修医は四千八十二名であったのに対し,二年の研修が終了し,今年,大学での研修を開始した医師は四千百三名で,わずか二十一名(〇・〇五%)の増加にとどまっており,大学関係者が予想した,後期研修者の大学復帰への期待は大きく裏切られた結果となった.また,平成十六年度に初期研修で大学外に出た研修医の追跡調査によると,八〇・一%の医師は大学に戻らずに,そのまま一般病院で研修を続けている実態が明らかにされている.

医師の研修システムの構築

 医師の修練は,決して初期の二年で終わるものではない.むしろ,その後に続く五年,十年に及ぶ各診療領域での経験の積み重ねと,たゆまぬ研鑽が不可欠である.
 しかも,なるべく一カ所にとどまることなく,しかるべき指導者の下で,いくつかの施設をローテートしながら,研鑽を積むことが求められるのではなかろうか.さらに,医師の研修は,すべての診療科の医師を万遍なく育てるシステムが構築されている必要がある.
 従来は,大学を中心に連携病院を含めて出向(派遣)と帰局を繰り返し,医師の養成がなされてきた経緯があり,医師の出向(派遣)は,研修の一つの過程であった.また,ある者は大学院に進学し,ある者は留学し,研鑽を積み,経験を重ねて一人前の医師として育つ過程が存在していた.この医師養成を,一般病院だけで,しかも,全科の医師を育てるとなると,ごく一部の病院(群)を除いて,容易ではないものと考える.まして,他の病院分の医師まで育てる余裕があるのか,極めて疑問である.
 もちろん,大学中心の従来の研修過程に多くの問題点があることは事実であり,改善に向けての努力が必要であることは論を待たない.しかし,研修医の地域分布を考えるなら,現在,一県に少なくとも一校は設置されている大学病院をなるべく活用し,地区ごとに一定の定員を設けて,大学病院と地域の病院が連携し,五年,十年にわたる医師養成のシステムを構築する必要があるのではないだろうか.また,現在の研修プログラムも,内科系,外科系,その他などに区分し,一部を卒前の学部の臨床実習に移すことにより,期間も一年程度に短縮し,専門研修を視野に入れたフレキシブルなプログラム構成にしてはいかがであろうか.また,このなかでGeneral Physicianを養成するコースを設定することも必要であろう.
 医師不足とはいえ,毎年八千人弱の新たな医師が誕生している.五年で四万人弱の医師を養成することが可能である.この医師を,地域と診療科を考慮しつつバランスよく育てる制度の確立こそが,現状の医師不足の解決策として最も緊急の課題と考える.後期研修医の誕生を迎えた今,初期研修制度については,研修プログラムの思い切った改定と,首都圏を中心に全国に広く研修医をばらまく結果となっている研修施設の早急な見直しが不可欠と考える.

(北里大学医学部長・全国医学部長病院長会議前会長 吉村博邦)

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