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第1079号(平成18年8月20日) |
臨床研修修了後の医師の教育
(大学以外の研修病院)
医療過疎地域における新医師臨床研修制度とその後の課題
岩手県は,四国四県に匹敵する広い県土を有し,県民は分散して生活している.交通網は十分に発達しているとは言い難く,高齢者人口も多い.そのなかで,平成十六年度の人口十万対医師数は,全国平均の二百十二人に対し,本県は百七十九人である.本県の医師不足,特に勤務医不足が抱える問題は大きい.
岩手県では,早くから全県一致して各臨床研修病院の実務者によるワーキンググループを構成し,平成十六年度から必修化された新医師臨床研修制度を好機として,研修病院の指導体制の強化と研修カリキュラムの充実,情報発信を行ってきた.その結果,岩手県初期臨床研修採用実績は,臨床研修必修化以前の三十八名に対し,平成十八年度は三十七名増加の七十五名と約二倍に達した.
初期研修医を対象とした厚生労働省によるアンケートの中間発表では,回収総数二千五百名のうち,五二%は臨床研修修了後に大学に勤務あるいは大学院進学するが,三八%は市中病院で就職ないしは勤務することを希望している.
従来は大学病院で後期研修を行う医師が大多数だったが,市中病院での後期研修希望者は増加している.彼らの九二%は専門医取得を希望しており,今後,大学だけではなく,研修病院でも,専門医取得を視野に入れた医師教育体制の構築が重要である.
地域保健・医療
当院では,地域医療の重要性を強く認識し,初期研修が努力義務であった平成十六年以前から地域医療研修を必修としていた.新医師臨床研修制度下では,地域の小規模病院における地域保健・医療研修を二カ月とし,樋口紘前病院長の指揮の下,全人的医療研修を組み立てた.その結果,患者さんを取り巻く環境に留意して,社会的資源を利用するチーム医療の重要性,社会のニーズを体験させることができた.
当院の初期研修修了生は,自己のその後の研修目標を構築するほかに,自分が社会から必要とされていることを身をもって経験し,地域医療の重要性を認識しているのである.そして,後期研修でも,各年次に応じて地域医療研修を必修化し,実践している.(表)
当院における後期研修
当院では県の協力の下,初期研修修了後の希望する医師を正規採用し,身分を保障したうえで「シニアレジデント」と呼び,幅広いプライマリケア能力を有する専門医を目指して教育している.
基本的には,各専門医取得を目指すストレート研修が主体であるが,地域医療研修を必修化し(表),地域特性を理解したうえでの医療全般を経験してもらっている.この地域医療研修は,各専門科病院への派遣のほか,専門診療科にとらわれない短期診療支援研修を織り交ぜ,幅広いプライマリケア能力の向上に努力している.
当院におけるシニアレジデントの役割
シニアレジデントは,膨大な症例を基にした専門研修を積むのみならず,院内のあらゆる部門での指導的役割も担っている.それは“屋根瓦式”初期研修指導に現れる.
救急現場では初期研修医の指導医の一人として,また病理医と協力した臨床・病理検討会の企画と司会進行,研修医対象のセミナーの企画と講演,および他の県内研修病院へのネットシステムを利用した放映,二十年の歴史を持つ死亡症例検討会に生かされている.
当院の救急は,年間四千五百台を超える救急搬送やその他の多くの急患に対応できるよう,初期研修医一年次二名,二年次一名,シニアレジデント一名,指導医一名,脳神経および循環器系医師各一名が日当直体制を組み,救急研修を行っている.シニアレジデントは,初期研修医の指導の中心となって活躍する.
死亡症例検討会では,その司会進行と初期研修医の発表技能・態度に対するフィードバックを,医療研修部スタッフとともにシニアレジデントが行う.「教えることは最も学習効果が高い」という理念に基づき,シニアレジデントが指導者としての責務を果たすことにより,彼らの能力がさらに向上することを期待して,院内で活躍する場が提供されるのである.
当院の臨床研修修了後の医師教育は順調に経過し,現在十四名のシニアレジデントが研修を行っている.良医を育成するための,さらなる施策が必要である.
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