日医ニュース
日医ニュース目次 第1087号(平成18年12月20日)

勤務医のページ

女性医師の復職支援
―再教育の必要性とそのあり方

はじめに

 女性医師数は平成十六年には四万二千四十名となり,全体の一六・四%を占めるようになった.二十九歳未満の全医師は二万五千九百六十名で,平成十四年に比し男性は七百五十二名減,女性は五百六名増で,女性医師が全体の三五・三%である.若手医師の二・八人に一人は女性で,今後の日本の医療提供体制を担う責任は重い.
 女性医師は,平成十二年国家試験合格者の三割を占めたが,平成十八年以降には彼らが三十歳を超え,その結婚,出産,育児,配偶者の転勤に伴う勤務形態の変化などが,臨床研修必修化と相まって医療情勢に影響を与える.育児経験などは医師としての包容力を育む可能性を持つが,一方,臨床現場から遠ざかることを余儀なくされ,復帰の道を断たれる例も見られ,支援体制を要する.
 筆者らは,「医師というプロフェッショナルとして一〇〇%働きたい育児中の男女が希望どおり働ける体制をつくるために,保育所整備や同情報網を確保し,仕事を一時軽減し育児を重視したい医師には,その体制として多様な労働形態を提案すべきである.また再研修,再就職の問題も重要である」と主張してきた.ここでは,実地の臨床体験を含む再研修の必要性,本学の取り組みを述べる.

女性医師の実態と要望

 厚生労働省の研究班(鴨下重彦班)および日本小児科学会の「女性医師の職域における環境改善委員会」として,二〇〇四年に全国の同学会員一万八千百十名(男性一万二千二百八十五名,女性五千八百二十五名)に小児科医師現状調査(回答率三九・〇%)を行った概要を述べる.
 女性回答数は二千四百七十八(三五・七%)で,勤務形態は未婚者では差がなかったが,既婚者では女性は男性より非常勤の割合が高かった.特記すべきは,女性の非常勤でも三十九歳以下では週の実動時間の平均は四十一時間に及んでいた.
 女性医師の四七%が休職を経験し,既婚者および子のいる群では,休職経験「あり」が「なし」を上回っていた.また,休職時期は,女性では卒後六・九八プラスマイナス六・四三年で,「育児」が最大の理由であった.
 充実した仕事の継続に際し問題となるとした割合が男性より女性で高かった項目は,再教育の場の不足,妊娠・出産,育児,子どもの教育であった(図).五〇%以上が仕事の充実に必要としたのは,女性医師では,専門医などの認定期間延長,勤務医師の労働条件/身分の明確化,学会時を含む育児施設の充実,介護制度の充実,職場の意識変革,多様な労働体制,休暇(出産,育児,介護)の設定などと代替要員確保であった.勤務に際しての問題点は,保育所入所,子の急病,感染症の対応,教育現場での行事への参加などであった.四十歳以上の女性医師の二割が子どもの心理的問題,三割が教育の問題に悩んだとしており,乳幼児期のみならず思春期に問題が顕在化する可能性も示唆された.

休職後の女性医師に自己の能力を再び生かす場の提供

 母体保護の体制一つ見ても,実践では不十分である.重要な職務である以上,代理医師が必要だが,現状は人材不足であり,女性医師バンク等の体制づくりも必要である.代行医師派遣とその経済的支援体制があれば,法制化された母体保護は運用可能となり,同僚医師の負担も軽減できる.そのためには再研修も必要で,専門領域の教育と一般的な救命救急の実技研修事業が必要である.
 臨床能力の保証には,実践観察も必要である.遠隔地では参加困難なため,住居の近隣での提供,ITによる提供も促進の必要がある.人は本能的に向上心があり,再研修,再チャレンジしたいはずである.しかし,女性医師を取り巻く環境は個々で異なり,研修を受ける条件を一律には決められない.受け入れ側の病院でもさまざまな状況がある.
 本学では,受け入れ病院と協力し,多様なプログラム,オーダーメイドの研修計画を備えた「女性医師再教育センター」を設立した.倫理や法的事項,臨床技能の一部などの教育や,百六年の女性医師教育の経験に基づくノウハウを含む相談はセンターで行い,反復体験が必要な点は近隣の受け入れ病院に依頼する.再教育による臨床診療への自信獲得,再就職希望女性医師増加を目的とする.
 対象は,(一)臨床現場からさまざまな理由により離れているが,再就職の希望を持っていること,(二)原則として,再教育を希望する科において二年以上の診療実績があること,(三)心身共に健康で,意欲がある方で,女子医大関係者とは限らない.
 再教育の場は地域的に近いことが望まれ,参加地域病院も募集中である.医師会のご指導,ご協力をお願いしたい.

終わりに

 女性医師育成までには,献体をされた方,病院実習で協力して下さった方などのご厚意,ご支援を受けている.今後は,育児休暇中などでも臨床現場から完全に離れることは避けられる勤務環境の整備が望まれる.また,本人が強い意志を持つべきことは言うまでもない.進路選択に際し,医師としての生涯研鑽継続の可否の考慮も必要かも知れない.

(東京女子医科大学医学部小児科 大澤真木子)

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