日医ニュース
日医ニュース目次 第1101号(平成19年7月20日)

勤務医のページ

子どもを産む女性医師は昇進できない!は,平等か?

育児休暇はだれにとってマイナスか?

 「産休や育休を取得した女性医師は,その間は病院に貢献していないのだから,昇進が男性より遅れるのは当たり前です」.これは,産後すぐに職場に復帰した,ある優秀な女性医師の言葉である.本当にそうだろうか? 必ずマイナスという評価が下されるというのであれば,子どもを産もうとする女性はいなくなるだろう.
 これこそが,現在の日本の少子化を引き起こした原因だと思う.自分の病院,医局だけが価値観のすべてなら,その発想も理解できる.しかし,子どもを産み育てることは,社会にとっては大変な貢献であり,病院は社会に貢献する組織のはずなのに,である.

情けは人のためならず

 私自身は,五年前に長女を出産した際に八カ月半の育児休暇を取得した.休暇中にお世話になった同僚の先生方には心から感謝しており,その思いがあるから,今度は他人のために協力できるし,他の医局員の休暇にも寛容になれる.
 最近の若い女性医師は,仕事を続けながら結婚も出産や育児も当たり前ととらえる女性が多い.しかし,彼女らがロールモデルとできる例は,極端に少ない.人は,チャンスがわずかでもあれば,かなり悪い環境でも頑張れるが,ゼロであれば絶望するしかない.病院内に女性の理事や教授がゼロでありながら,「女性は辞めていくから採りたくない」と嘆く医師に,他者を思いやる心があるとは思えない.

女性医師に必要な意識改革

 一方,女性医師の側にも意識の改革が必要である.日本の女性は,生まれた時から「女らしく」と刷り込まれる.「女らしさ」とは,料理が上手なことであり,男性を立てて,か弱く振る舞うことを指すことが多い.これらは医師として求められる要素とは掛け離れている.男性医師は女性医師に,医師としてしっかり働くことも,「女らしく」振る舞うことも求める.優秀な女性医師は,両方を完璧にこなそうと奮闘するが,そんな曲芸のようなことはしょせんできないため行き詰まり,医師を辞めて,求められる女性に戻るのである.
 最近では,日医や東京女子医科大学などが,女性医師の復職を積極的に働き掛けている.これまで休職していた女性医師には,大変な朗報だろう.そして今後は,辞めずに済む環境づくりを目指さなければならない.
 育児休暇中の八カ月間,仕事から遠ざかっていた私は,体力,知識,気力すべてが日に日に低下するのを実感し,復職後は苦労した.ましてや,「子どもが小学校に上がるまで」休むことなどは,医師としては致命的と思う.女性は自己主張が苦手なために,交渉することなく,突然辞めるという手段を選択することが多い.女性医師には,医師になるからには一生働く決意とともに,働き方は多様であることを教えなければならない.
 出産や育児をしながらの医師像が想定されていない男性型社会では,妊娠した時点で,キャリアは当然終わりである.辞めてしまうという,だれにとっても利益がない選択をする前に,上司と労働条件を交渉する,働きやすい病院に移る,科を変えるなどは当然の流れである.辞めた女性医師は異口同音に,「そんな選択があるなど,思いもよらなかった」という.

男女をともに活かす働き方

 女性から見て,男性型社会が決して男性に優しいとは思えない.特に,妻が専業主婦である男性医師の忍耐力は素晴らしい.医局でどんな不条理があろうと,家族を養うためにと,ひたすら我慢する.その我慢が,だれにとっても生きにくい現場を,より醸成しているにもかかわらず,である.私の知る限り,先進国で定時を過ぎても主治医が呼び出され,会議が夜に開催されるのは日本だけである.女性医師が五〇%を超えても医療が破綻しない国は,夜間は当直にすべて任せて帰宅できる仕組みが必ずある.その代わり,女性医師も育児休暇が明ければ当直をすべきである.授乳期が終われば,すべての育児は男性も同等に行うことができるのだから.それが全員を生かす必須条件である.

自己主張と聞く耳

 女性医師は,入局,結婚,妊娠などの大きな節目では,同僚や上司には自分がどうしたいか,はっきりと意思表示すべきであるし,男性医師は,「妊娠? 辞めるの?」ではなく,相手が欲していることに耳を傾け,相互にとって良い道を選択していかなければならない.
 何しろ,それ以外の完璧な解決法は,男性に子どもを産んでもらうしかないのだから.

(東京医科大学病理診断学講座 泉 美貴)

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