日医ニュース
日医ニュース目次 第1103号(平成19年8月20日)

勤務医のページ

医師が働きやすい病院をめざして

はじめに

 数年前から「医療崩壊」という単語が飛び交い,地方病院での医師不足によるベッド閉鎖や産科・小児科などの診療停止が,しばしばマスコミを賑わしている.卒後臨床研修必修化が,これらの動きの引き金となったことは間違いないが,背景には,高度化する医療を支える十分な人材が養成されてこなかったことがある.医学部定員増は即効性がないため,離職中の女性医師にスポットライトが当たる結果となった.
 確かに,女性医師が急増するなかで女性が十分に働くことができなければ,実働医師数が減少する.しかし,医師の就労環境は,医師数の絶対的不足と医療費削減から劣悪な状況にある.女性医師が仕事と家庭を両立できることはもちろん,男性医師にとってもワーク・ライフ・バランスの観点から,就労環境の整備が喫緊の課題となっている.

働きやすい病院をめざして

 女性医師が働きやすい環境を整え,少しでも多くの医師を確保しようとする試みが始動している.例えば,国立病院機構大阪医療センターでは,「女性医師の勤務環境改善プロジェクト」を立ち上げ,フレックスタイム導入や再研修コース整備による女性医師の復職支援を行っている.東京女子医科大学では,女性医学研究者支援室を立ち上げ,柔軟な就業体制と病児保育を導入し,就業困難な時期の女性医師の研究支援によるキャリア向上を図っている.大阪厚生年金病院は,早くから職員の子育て支援に取り組んできた.
 これらの個々の取り組みを,統一的な基準で評価し,分かりやすく情報発信すれば,医師が復職する時の指標として有用と考え,私たちが立ち上げた,NPO法人「女性医師のキャリア形成・維持・向上をめざす会」では,昨年から「働きやすい病院評価事業」を始めた.

働きやすい病院の評価

 目的は,「働きやすさ」の評価により,就労環境を改善する一助にしてもらうこと,人間らしい生活を保障する病院が良い人材を集めて良い医療を提供するという好循環をつくることにある.
 すでにある日本医療機能評価機構の評価は,患者への医療の質を評価する顧客満足度評価であるが,働きやすい病院評価は,医療従事者にとっての就労環境を評価する従業員満足度評価である.この二つの評価は車の両輪であり,医療従事者の満足度が高ければモチベーションが上がって良い医療を提供でき,患者の満足度が高くなると期待される.
 別表に評価項目を示す.各種項目がシステムとして整っていることも大切だが,より重要なことは,病院管理者の「働きやすい病院」を目指す意欲とシステムを活用しようとする姿勢,そして,システムを活用できる職場の雰囲気である.
 今までに七病院が認定され,いずれの病院も,病院長が「女性医師・男性医師の分け隔てなく,働きやすい就労環境が必要である」という意識をしっかり持ち,事務担当者も院長と同じ価値観を共有していた.このことが,就労環境改善への大きな原動力となっていることは明らかであった.
 認定後,子育て中の女性医師が復帰したり,女性医師の新規採用が増えたとのことで,女性医師が働きやすい病院を選びやすくなったことを示している.

勤務医のページ/医師が働きやすい病院をめざして(図)

おわりに

 働きやすい病院では,女性医師の復職が促されるだけではない.女性医師が継続して働ける病院は,同時にすべての医師が働きやすい病院につながる.総医療費抑制策のなかで,医師が働きやすい環境を整えることは容易ではないだろうが,一方,良い人材を確保できなければ病院の存続さえ危ぶまれることは,すでに多くの自治体病院で明らかになりつつある.
 患者だけではなく,医師のアメニティー向上が,これからの病院にとって重要であることは,時代の趨勢である.その一端を担うことができればと始めた「働きやすい病院評価」について,紹介した.

(女子栄養大学教授 藤巻わかえ)

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