日医ニュース
日医ニュース目次 第1107号(平成19年10月20日)

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座談会(第1回)
「地域医療の崩壊と勤務医」をテーマに

 日医の勤務医委員会では,七月二日,「地域医療の崩壊と勤務医」をテーマに座談会を開催した.今後,四回にわたって掲載する.

 池田(司会) 本日は,お忙しいなかをありがとうございます.「地域医療の崩壊と勤務医」をテーマに,存分にお話しください.
 鈴木 勤務医の先生方が当面している課題をお話しいただき,勤務医以外の先生に強くアピールするような座談会にしたいと思います.

医療崩壊に対する実感

 池田 最初に,医療崩壊に対する先生方の実感について,お話をいただきます.
 小池 研修医として,確かに閉塞感は感じます.勤務医を続けていくとしたら,自分の体はもつのか,その労働は報われるのか,という気持ちがあります.
 大橋 那覇市内では,「お産難民」と言うほどではないですが,合併症のない妊娠であっても,何軒も断られてから,私の病院に来る例が多く見られます.
 片桐 日本では,元々医師が少ないにもかかわらず,欧米並みの医療を一生懸命やってきました.これでは,どうしても無理がくると思います.さらに,新医師臨床研修制度が導入され,医師の配置のバランスが大きく崩れたのではないでしょうか.
 高橋 現実的には,崩壊している分野が多々あるというのが実感です.
 その主な原因としては,勤務医離れが挙げられると思います.開業もそうですが,研究者や行政等,勤務医以外の道を選ぶ医師が周りにも多くいます.
 岡村 医療崩壊,もう間近だと実感しています.自分の命を削り,家庭を崩壊に導いてまで,勤務医を続けられないと思います.

勤務医の過重労働

 池田 勤務医の過重労働や長時間労働の問題と考え合わせながら,医療崩壊の話を続けていきたいと思います.
 片桐 大阪府医師会が,平成十七年七月,勤務医の過重労働に関するアンケート調査を行いました.
 この調査結果によると,過労死の労災認定基準以上の時間外労働である週二十時間,月八十時間以上働いている医師が,二十歳代で八〇%超,三十歳代で六〇%超,四十歳代でも五〇%超.月七回以上の当直を行っている医師が,二十歳代で二七%,三十歳代で一四%,四十歳代で約一〇%もおり,これらの勤務状況を過重に感じている医師が,全体の七四%を占めることが分かりました.
 さらに,「自分の健康に不安を持っている」は八五%,「医療ミスを心配している」は六六%,また,「これでは家族との十分な関係が維持できない」という問いに対しても,五六%の医師が“そうだ”と答えています.この現状は,いくら何でもきつ過ぎるだろうと思います.
 高橋 われわれの病院でも,月に百時間程度の時間外勤務をしている医師は,半分以上いるのではないかというのが実感です.私も最近,月の時間外勤務が百時間を下回ったことはありません.
 また,医療崩壊に関連して実例を挙げますと,地域の病院から現実に医師がいなくなっており,消化器内科医が三人しかいない三次救急センターがあります.そういった病院等に診療支援に行くために,医師が比較的充足している病院でも,当直や支援の回数が増えていて,それも過重労働の原因の一つになっていると思います.
 岡村 シフトを組めるだけの医師がいればいいのですが,それだけの医師がいないのが現状です.また,患者の増加に伴い,外来が終わるのが夜の九時半になるという事態も発生しています.
 レセプト処理などの仕事は,入院患者も診て,すべてが終わってから行うわけですから,そのころには夜中になってしまいます.その場合は,時間外勤務は付けられません.それでも,やらなければ業務が回らないので,研修医にも一緒に頑張ってもらいますが,業務が終了して自宅に帰っても,また夜中に呼ばれるということもあります.
 大橋 当直の時は一睡もできないこともよくありますが,それでも当直の勤務表には,労働時間は八時間と書かなければいけない現実もあります.また,土・日の当直も,実際には二十四時間やっていますが,勤務簿には十六時間と書かなければならないようになっています.これは私たちが公務員なので,それだけしか書いてはいけないことになっているからです.
 研修医も同様です.沖縄県では,研修医も「医師」として嘱託扱いなので,月に二十日しか働いてはいけないことになっています.それ以外の,土・日の日勤は手当が付きません.実際にはそれどころではないのですが,それは勝手に働きたいから,研修したいからやっているのだという理由で片付けられます.そのことに疑問を持っている研修医をたくさん知っています.
 岡村 コメディカルに仕事を任せられればとも思うのですが,人員削減の折,事務職員も看護師も助産師も数が足りません.医師が「奉仕」という形を取ることで,埋め合わせをしているというのが現状です.
 小池 給料の出ない土曜・日曜も関係なく毎日働いて,そして体を壊して平日休むと給料を削られます.土曜・日曜も働いているのに,どうしてかと思います.
 大橋 行政や偉い先生方が,現場の現状について,まったく認識していないと思います.
 高橋 医師が行っている業務が非常に多いように感じます.
 例えば,入院患者の診断書を書くことは,医師として当然だと思いますが,同じような診断書が何枚も来た時に,写すだけでいいものを,すべて医師が手作業で行っています.また,同意書なども医師が最初に説明するものですが,その後の簡単なやり取りなどにかかわるスタッフがいると,よいと思います.
 書類書きや伝票の整理等の雑務があまりにも多過ぎて,しかもこれが加速度的に増えて,患者さんと向き合える時間が極めて少なくなっていると感じています.

医師不足の現状と対応

 片桐 医師が絶対的に不足していると思います.国民は,国際標準の医療を求めているわけですが,日本の医師に特別な能力があって,他国の医師よりはるかに多くの仕事量をこなせるということはありません.その水準を求めるならば,そのための医師が必要だと考えるのは当たり前だと思います.
 また,全体の医療費が増えないと,従来からのパイを取り合うだけでは,ほとんど意味がないので,「必要なものは必要」と明確に主張していかなければならないと思います.
 高橋 医療費の大枠が決まっているのであれば,高額な高度先進医療が進めば進むほど,恩恵を受けられる人数を制限しないと医療費総額が増えてしまいます.医療費を増やさずに,業務の補助者も手当てせずに,より良い結果を求める.それは土台無理な話だと思います.
 小池 素朴に思うのですが,今の医療費ではこれしかできないと,もっと言わなければならないと思います.「これ以上できません」「もらっているこれだけの給料じゃ,これ以上働けません」と.
 大橋 医療にもっと予算を投入するべきだと思います.予算が付かないのであれば,これ以上の医療の高度化等に伴う医療頻度の増加には耐えられないので,国民にも我慢してもらわないといけない.
 例えば,今日,妊娠の高齢化が進んで,大きな合併症を持っている人でも,体外受精などで普通に子どもを産めると思っています.一人に割く診療時間がどんどん増えているので,それを今までの医療費と同じ枠組みのなかでやっていくのは,とても難しいと思います.
 池田 日本では医療の量は多いのですが,医療費は欧米に比べて非常に少ないという問題があります.全体の医療費の話だけではなくて,お産の費用など,個別の比較をするようなデータも欲しいと思います.

勤務医座談会 出席者
池田 俊彦【司会】(日医勤務医委員会委員長・福岡県医師会副会長)
大橋 容子(沖縄県立南部医療センター・こども医療センター)
岡村 麻子(日立総合病院)
片桐 修一(大阪市立豊中病院副院長)
小池  宙(東京医科歯科大学附属病院臨床研修医)
高橋 弘明(岩手県立中央病院神経内科長兼地域医療支援部次長)
鈴木  満(日医常任理事)

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