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第1115号(平成20年2月20日) |
18,000,000円の勲章
もう,ふた昔も前のことだが,徳島病院の大先輩に伺った話である.
ある若い先生が赴任してきて,「病棟回診をする」と言い出したことで,病院中が大騒ぎになった.「お医者さんが回診をするなんて,そんな無茶な……」.では,当時,一体どんな具合だったのか.病棟婦長が買い物かごにカルテを詰め込んで,お医者さんのところへ運んでいたそうである.
かつて,療養所と呼ばれていた施設では,多少の違いはあれ,同様のサプライズがあったようだ.徳島病院も,確かに昼寝をしたくなるようなロケーションにある.そんななかで,私は十五年間,筋ジストロフィーの仲間たちと付き合ってきた.白衣は,着任後,早々に捨てた.
ところが,病棟の様相が一変した.小児科で診ている患者約五十名中七〇%が人工呼吸となった.当初,一人もいなかった在宅人工呼吸患者も四十名近くになった.買い物かごをさげた婦長は,アラームに追い回される師長に変わった.
全国の国立病院機構所属施設には,現在二千名以上の長期人工呼吸の神経筋疾患患者が入院中である.もちろん,離脱を目的とせず,五年,十年は当たり前,最も長いケースでは,二十七年間人工呼吸を続けている.その安全管理とQOL向上を目指すことは,言われるまでもない.赴任後,間もなく人工呼吸器を電動車いすに搭載,できるだけ生活の制限を少なくし,外泊も積極的に支援してきた.
その結果,筋ジストロフィー入院患者の外泊による減収が,年間千八百万円とはじき出された.しかも,その七〇%が小児科分であった.
現在,私はこの千八百万円減を勲章ととらえ,かろうじて自分のモチベーションを保っている.さて,いつまで続くであろうか.
(国立病院機構徳島病院副院長 多田羅勝義)
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