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第1121号(平成20年5月20日) |
平成18・19年度勤務医委員会答申(その1)
「第5次医療法改正における勤務医の課題」
勤務医委員会(池田俊彦委員長)は,諮問「第5次医療法改正における勤務医の課題」に対する答申書を取りまとめ,3月12日,唐澤人会長に提出した(写真).答申の概要について,二回に分けて報告する.
I.第五次医療法改正が目指すもの
第五次医療法改正が目指すものを理解するうえで,第四次医療法改正以来に生じた日本の医療情勢の変化を認識することが重要である.
第一の変化は,過熱するマスコミ報道に伴う国民の医療不信の増大である.医療安全の確保が喫緊の課題となり,医療従事者の資質の向上が社会的要請となった.
第二の変化は,医療費抑制政策の影響である.極端な医療費抑制が医療のゆがみを引き起こし,新医師臨床研修制度によって医師不足問題が露呈した.
医療制度改革関連法案の可決に当たってなされた二十一項目の附帯決議は,その施行・運用に相当な問題点を含んでいることを意味する.その対立・問題点は,「医療の安全や信頼・質の向上」と「医療費抑制・経済効率」との相反する課題に起因しているが,「医療費の抑制」が第一義であってはならない.
II.医療計画の見直し等を通じた医療機能の分化・連携の促進
勤務医の課題は,患者の視点に立った質の高い医療を効率的に提供する医療連携体制の構築を積極的に行い,病院の治療成績を含む臨床指標を開示し,住民や患者に積極的な情報提供を行うことにある.
各都道府県における医療計画のなかで,四疾病および五事業について,それぞれに求められる医療機能を明確にしたうえで,医療機関が機能を分担および連携することにより,切れ目なく医療を提供する体制を構築することが必要である.医療計画は,国の政策の一方的な押し付けに従うものではなく,地域の実情を十分に反映するとともに,患者や住民が地域の医療機能を理解し,必要に応じた質の高い医療を受けられるようになることが期待される.
医療機関は,地域が期待する役割を明確化し,専門性と機能の充実を図らなければならない.
III.勤務医の不足ならびに過重労働の問題
政府は,全都道府県で医学部の定員を増やすことなどを決定し,医師不足問題への対応を図っているが,現状には対応出来ない.
また,新医師臨床研修制度の導入により,都市部への研修医の集中が問題となっているが,その理由は,症例数や施設設備の充実等によるものである.医師不足地域を賄うために研修医を労働力とみなすべきではないし,医師不足地域に研修医が集中すれば,その指導に追われ,さらに事態が深刻化する恐れもあるのではないか.
当直明け勤務については,国民の意識変革も必要ではあるが,グループ制や複数主治医制での診療により,解決するのではないだろうか.また,医師でなくても対応可能な業務は,適切な役割分担により,他の職種に任すことによって,過重労働の一端は回避できるであろう.
IV.女性医師の問題
医師に占める女性の割合は増加しており,その割合が高い小児科,麻酔科,産婦人科などでは医師不足が顕在化している.
女性医師における年齢対就業率のグラフはM字カーブを描く.凹みの主因は,妊娠・出産・育児による離職で,わが国の育児支援の貧困さを示す.就労継続に関する女性医師の要望としては,(一)病児保育を含む育児施設の充実,(二)多様な労働体制を含む就労条件,(三)職場の意識改革─が多い.
キャリア形成の好時期に妊娠・出産・育児が重なることと,男女平等とは言えない社会的な意識構造が,女性医師のキャリアアップを妨げている.
勤務医は病院管理職も含めて,女性医師問題が過重労働を始めとする医師全体の問題の集約であることを理解し,その解決に向けて積極的に取り組むべきである.
V.医療安全の確保
勤務医は,医療安全を確保するための取り組みに積極的にかかわり,組織的な安全管理体制を確立するために努力することが重要である.
医療事故発生後の対応については,院内に医療事故調査委員会を設置し,事故の真相究明と患者側への十分な説明がなされるべきである.
また,都道府県医師会の医事案件調査委員会等や,厚生労働省が議論を進めている診療関連死の原因究明や再発防止等に資するための第三者機関が調査し,判断を示すことで,裁判外で解決を図るよう努力することが必要である.
医療事故の究明は,再発防止に役立てられなければ意味を持たない.それゆえ,医療事故の調査は,医療関係者が主体的に行うべきであり,事故関係者を罰する司法的な考えや,患者側に対する感情・補償の問題が優先されるべきではない.
VI.行政処分を受けた医師に対する再教育制度
病院システムの不備や過重労働等,極めて粗悪な労働環境下での,故意ではない医療過誤に対して,多くの医師が行政処分の対象とされている.刑法第三十五条には,「法令又は正当な業務による行為は,罰しない」とある.
国は,行政処分にかかる事案について,詳細な調査を行うことに関与し,被処分者の弁明の機会に,この調査結果が用いられるべきである.また,処分の対象となる事案を示すことで,その減少につながるのではないか.
行政処分を受けた医師名がホームページに開示されるが,倫理・医療上,極めて悪質と認定された場合に限定すべきである.
再教育では,医業停止処分であっても,指導医のもとで限定された医師資格での医療行為の可能性について考慮する必要がある.
助言指導者の立場・資格・身分保証については,明確な対応が国として求められる.
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