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第1123号(平成20年6月20日) |
平成18・19年度勤務医委員会答申(その2)
「第5次医療法改正における勤務医の課題」
今号では,本誌第1121号(5月20日号)に引き続き,勤務医委員会答申「第5次医療法改正における勤務医の課題」の概要を紹介する.(全文は,日医ホームページ「勤務医のコーナー」参照)
VII.地域住民への医療情報の提供について
第五次医療法改正において,医療機能情報提供制度が創設された.
地域医療情報ネットワーク化の目的は,包括医療活動の効率化,包括医療サービスの質的向上,そして住民のQOL向上である.その目的の達成には,良質な情報にタイムリーにアクセス出来ることが必要である.
医師と患者の間には,情報の非対称性が生じており,同じ医療情報にアクセスしても,引き出せる情報量には格段の差がある.医師を介して膨大な医療情報のなかから,的確に情報を抽出して患者に提供することは,患者の不安を払拭し,適切な診断と治療を提供するために必要なことである.そのためには,情報のインフラを整備するとともに,このシステムを確立することが急務である.
VIII.公私医療機関の新しい役割
公的医療機関については,地域医療対策協議会において都道府県が定めた施策の実施に協力しなければならないとし,厚生労働大臣または都道府県知事により命じられた場合には,医療計画に定められた救急医療等確保事業に関し,必要な措置を講じることとしている.
医療法人制度改革の目指すものは,非営利性の徹底とともに医療資源の継続的確保にある.医療法人の役割として,公的病院等と同様に,地域医療提供体制の構築のため不採算部門医療を担う必要性が生じるが,不採算部門については,診療報酬上の手当てがなされなければならない.
勤務医の負担を軽減するために,開業医に期待される役割として,在宅当番医制のネットワークの構築等が挙げられているが,開業医も地域医療推進のため多忙であり,地域の実情により地域で検討する必要がある.
IX.在宅医療と勤務医
在宅療養支援診療所として登録した約一万医療施設のうち,実働は一〜二割と推定される.この原因は,在宅医療を社会のインフラ整備が不十分のまま普及させようとしたことにある.
ここに,在宅医療推進における勤務医の役割をまとめた.
(一)世論の合意形成
在宅医療は,医療資源の分散など数多くの問題点を含んでおり,その推進には,医療界を含めた世論の合意形成が不可欠で,その議論に積極的に参加すべきである.
(二)情報の共有化
在宅医療チーム,なかでも在宅主治医と患者の情報を共有するために情報元となり,コミュニケーションを図るべきである.
(三)患者の教育
医療は,在宅を含めたチーム医療であることを患者に理解してもらうため,患者の教育に努力すべきである.
X.医療を担う志の高い次世代医師の育成
プライマリケアに習熟した医師を養成する一方で,増大する新知見,新技術を使いこなす専門医が必要であり,さまざまなタイプの医師が適正なバランスで養成され,全国に配置されなければならない.
総合的医師の養成に関しては,卒前教育から一貫したシステムを考える必要がある.また,医学生の医行為については,共用試験を一種の資格試験として,合格した者は一定の医行為が実施出来るよう,法的にも整備しなければならない.
新医師臨床研修制度については,制度の見直しや,研修プログラムの質の改善が強く望まれる.また,専門教育に関しては,後期研修プログラムの充実が,専門医制度については,第三者機構による専門医認定制度を構築し,質を担保することが必要である.臨床研究,基礎研究への参加も併せて推進しなければならない.
XI.医療費抑制政策と医療崩壊
世界保健機関(WHO)によれば,日本の健康達成度の総合評価は世界第一位とされており,それを支えているのが国民皆保険制度である.
日本学士院会員で経済学者の宇沢弘文氏は,「医療は,社会的共通資本であり,一つの国ないし特定の地域が豊かな経済活動を営み,優れた文化を展開し,人間的に魅力ある社会を持続的,安定的に維持することを可能とするような自然的,社会的装置である.その管理・運営は決して市場的基準,あるいは官僚的基準によって決められるべきものではない」と述べている.
この考え方に立てば,政府は,まず必要十分な医療費を決め,財源を確保するという方法を取らなければならない.財源優先の政策で財政中立を前提とした議論から決別し,医療費の増加政策に転換しなければならない.
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