日医ニュース
日医ニュース目次 第1123号(平成20年6月20日)

勤務医のひろば

社会保障,医療はどこに向かっているのか

 手術や検査の前に,患者,家族に十分な説明に基づく同意を得たうえで行う,当たり前のことが出来ないのが最近の状況である.
 患者が高齢化して,十分な理解が得られないことが多い.そのような家族背景を承知して,リスクを承知で行うことも少なくないが,重症例や侵襲の大きい場合は,そうも言っておれない.そこで,「ご家族は?」となるが,子どもたちにも生活がある.電話で説明と面会日を提案すると,「多忙であり,手術の日には行きます」となる.結局,「急な用事で」と来ないこともある.
 子どもがいない場合は,親戚兄弟となるが,高齢者の場合は,これまた難しい.成年後見人が決めてある例はまれである.
 対応するスタッフの時間は長大となる.悪い結果に対して,社会は要求と権利の大合唱である.医療に専念する医師は,限られた環境の者だけであろう.
 OECD先進国並みの,医療関係者密度があれば,十分な対応が可能であるが,厚生労働省は何を勘違いしたのか,ベッド数,在院日数などのOECD目標に躍起である.
 独居高齢者,老老夫婦が多くなり,家族形態としても社会保障機能が破綻している.昔は,二世帯,三世帯家族,終身雇用制度などが,そのまま社会保障機能を保持していたが,多くの場合は崩壊している.ならば,それに取って代わるシステムが必要では?
 わが国の有り様はどこに向かっているのか.社会的共通資本としての社会保障,とりわけ医療の位置付けを,国民は真面目に考える時期に来ている.日医は正念場に来ているのではないか.
 少子高齢国,日本を導く指導者が見えないのは残念である.戦後,民主主義は根付いたかも知れないが,自由と権利の主張の垂れ流しで,責任と義務を果たす仕組みがないのが,日本の現状と言える.

(佐賀県立病院好生館館長 樗木 等)

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