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第1125号(平成20年7月20日) |
医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案と7つの論点
佐原康之(厚生労働省医政局総務課 医療安全推進室長)
医療事故による死亡の原因究明・再発防止に医療界が中心となって取り組む新しい仕組みについて,医師会の皆様を始めとしてさまざまな議論をいただいている.
厚生労働省では,平成二十年四月に第三次試案を公表したが,第三次試案で提案したような新しい制度を創設・運用するためには,法律の整備が必要である.
同年六月に作成した大綱案は,第三次試案へのパブリックコメントも踏まえ,同試案を法案化した場合のイメージを示したものである.
大綱案作成に当たっての主なポイントは,次のとおりである.
1.医療事故死等に関する届出の範囲
「届出の範囲が曖昧である」「具体的な基準を示すべきである」との意見が多く寄せられた.
本大綱案においては,医療事故死等に該当するかどうかの基準(ガイドライン)を医学医術に関する学術団体および医療安全調査中央委員会の意見を聴いて主管大臣が定め,公表することを明記した.
2.医師法第二十一条の改正
医師法第二十一条に但し書きを設け,医療事故死等については,医師は医療機関の管理者に報告すれば,警察への届出の必要はないこととした.また,医療事故死等の報告を受けた管理者は,必要に応じて関係者と協議し,直ちに主管大臣に届け出ることとする.
したがって,医師は,殺人等の異状死の場合には警察に,医療事故死等の場合には医療機関の管理者に報告することとなる.
3.委員会の構成
「委員会は医療の専門家のみで構成すべき」「医療の専門家だけでなく,法律関係者およびその他の有識者を加えて,多面的な委員構成とすることに賛成」との意見をいただいた.
委員会の透明性,中立性,公正性の担保のためには医療の専門家のみでなく,法律家や医療を受ける立場にある者等の参加も必要との考えのもと,第三次試案のとおり,医療の専門家以外の者も委員として任命することとしている.
4.警察への通知を行う範囲
「重大な過失の定義が分かりにくい」「具体的な基準を示すべきである」との意見があり,「重大な過失」との表現は使用しないこととするとともに,「標準的な医療から著しく逸脱した医療」について,次のような注釈を記載した.
「病院,診療所等の規模や設備,地理的環境,医師等の専門性の程度,緊急性の有無,医療機関全体の安全管理体制の適否(システムエラー)の観点等を勘案して,医療の専門家を中心とした地方委員会が個別具体的に判断することとする」
5.警察による捜査との関係について
「医療については,業務上過致死罪を適用するべきではない」「遺族が告発しても,調査委員会が通知しない場合には,警察は捜査に着手しないよう法制化すべき」等の意見があった.故意や重大な過失があったにもかかわらず,医療者についてのみ,刑事責任を問われないとすることについて,現段階で国民の理解を得ることは困難と考えられる.
大綱案および第三次試案は,医療関係者を中心とした委員会からの通知を踏まえ,捜査機関が対応するという,委員会の専門的な調査を捜査機関が尊重する仕組みを構築しようとするものであり,委員会が一定の基準に照らし必要と判断した場合には,警察に通知を行うことを明記した.
6.医療事故調査の実施の体制整備について
本大綱案においては,法律の施行の日の前においても,医療事故調査の試行的な実施その他の必要な準備行為を実施可能とした.法律案が国会で可決成立したとしても,施行までに三年ほどの準備期間を置く.現在,日本内科学会が実施主体となっている「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」の実施地域で「医療安全調査準備試行事業」を実施し,順次試行地域を全国に拡大し,本施行に備える.
7.委員会を所管する府省について
「内閣府等に設置すべき」「厚労省に医療情報が集中していた方が良いことから,厚労省とすべき」等の意見があった.本大綱案においては,委員会を設置する府省を特定せず,さらに検討を進めることとしている.
大綱案および第三次試案については,国民の皆様から幅広く意見をいただくため,意見募集を行っている(厚労省ホームページhttp://www.mhlw.go.jp/public/).良い制度となるよう,今後とも広く国民的な議論をお願いしたい.
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