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第1129号(平成20年9月20日) |
日本医師会に求められる勤務医の視点
わが国の勤務医の現状
今,病院勤務医は過酷な状況に置かれているということは,周知のことである.政府の医療費抑制政策は,病院経営,とりわけ急性期病院の経営を圧迫し,病床稼動率の向上と在院日数の削減のために勤務医は日々追い立てられ,逃げ場のない閉塞感のなかで仕事を行っている.患者さんに対する説明と同意に時間を割き,意見書,診断書など書類を書く時間も増え,勤務にゆとりはまったくない.
中堅医師が疲弊して病院を去り,残された医師にはさらに過重労働がのしかかるという悪循環になっている.小児科や産科のみならず,内科においても,総合病院で循環器の専門医がいない,消化器の専門医が一人しかいないなど,今や都会でも勤務医の不足は現実のものとなっている.
わが国の医療は,財政的にもマンパワーの点でも明らかに不足しており,この原因は政府の財政主導の考え方にある.このままでは勤務医はますます疲弊し,病院を離れ,わが国の医療はとんでもない方向に進んでいくと思われる.少ない経費と人数で最高の医療水準を保っているのは,勤務医の犠牲の上に成り立っているといっても過言ではない.
法定の週四十時間を超える勤務を,八割の勤務医が行っている.過労死の労災認定基準では,発症前一カ月間に百時間を超える時間外労働があれば過労死との関連性が強いとしているが,週にすると二十五時間であり,多くの勤務医がこれに該当する.当直業務については,本来は電話当番や見回りのみとされているが,実態は一晩に何度も起こされており,たとえ一睡も出来なかったとしても翌日の通常勤務が行われている.多くの医師が,医療安全,自分の健康,家族との関係に不安を抱いている.
日医の勤務医に対する現状
平成十九年八月一日時点での日医の勤務医会員の構成割合は,四六・七%である.一方,日医代議員数は三百五十名であるが,そのうち勤務医はたった二十名(五・七%)にしか過ぎない(表).代議員を選ぶのは,都道府県医師会であるが,現在都道府県医師会から日医代議員として立候補できる状況にある勤務医はごくわずかだと考えられ,結果的に少ない数字になっていると思われる.
各都道府県医師会においても勤務医会員数は約半数にのぼると思われ,勤務医の視点を取り上げ,多くの勤務医を代議員として日医に送っていただきたい.現在,勤務医部会を設立している都道府県医師会は二十九で,十八都県ではまだ設立されていない.すべての都道府県医師会に勤務医部会が設立されることが望まれる.
日医への提言
日医は日本の医療をどうすべきかという視点に立ち,意思決定機関である代議員会や中枢である理事会において,会員のほぼ半数を占める勤務医の意見を反映する体制をつくらなければ,正しい方針は出ないということを認識すべきである.現在の医師会は,日本の医療全体を見ているのではなく,片翼飛行の状態である.そこに勤務医の視点がない限り,日本の医療全体がよくなっていかない.日医は,勤務医を含めたすべての医師の意見を集約すべきである.
勤務医は,医政に無関心であるといわれているが,インターネットへの書き込みを見ると大いに関心を持っている.このパワーを日医に取り込むべきである.
今年度,日医に「医師の団結を目指す委員会(プロジェクト)」と「勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会」が開設された.委員の多くは勤務医を経験された各界の指導者の先生方である.日医執行部はこれらの委員会からの提言を受け,勤務医の目に見える形で施策を実行していただきたい.国に対する要望のなかに,ぜひ勤務医の勤務環境改善を盛り込んでいただきたい.
おわりに
医療の崩壊を食い止めることは,日医の使命であり,そのためには勤務医の視点を取り上げることが必須であると提言させていただいた.
(大阪府医師会勤務医部会顧問 藤田敬之助) |