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第1135号(平成20年12月20日) |
病院長たちの恐らく共通の感想
川崎市立井田病長 関田恒二郎
勤務医の数は遅々として増えないまま,医療行政や通達はめまぐるしく変転する.このところ,ようやく「医療費をけちるな」との声が,少しだが強まってきた.楽観はまだまだ許されないが,いい傾向だ.
どなたかも仰せのように,わが国民性のゆえか,不適切な報道のせいか,落ちるところまで落ちないと改革の声が挙がってこないのかも知れない.この間に,尊い犠牲者が何人も出ることになる.
だが,医療費をもっと増やせとの声が伝わるようになったのは,現状を憂える何人もの有志たちが,キャンペーンを続けてくれているお陰でもある.人手不足と赤字に悩む病院の院長たちがキャンペーンを張ろうとしても,単なる言い訳としか受け取られない.
「医療と教育は重要な社会的共通資本なり」と,高名な経済学者が説かれた.あえて言い換えると,医療は橋やトンネルと似たようなものである.もし,これらが壊れたままで捨て置かれたなら,市民は安定した生活を享受できないだろう.
橋や高速道路の崩壊は目に見え衝撃的であるが,医療や福祉の破綻は,じわじわと進行し,しかも不可逆的となる.
再生医療は夢のある話だが,その前に医療再生が間に合うだろうか.必要な財源が不足というなら,巨額な予算の優先順位を国民に問うたらいい.
大昔から,心ある為政者は民を護ることに腐心した.疫病を鎮めようと神事を執り行ったり,堤防を築いたり,外敵に備えるなどである.名君と言われた人は世の平安と活気を保ち,ひいては良民を育てた.
現代の不安の根元は医療と福祉にある.国民が不安を抱いたままでは,安定した勤労などできず,活力も生まれはしない.
そうならないよう,医療の現場では志の高い勤務医たちが,世のため人のため,黙々と頑張っている.彼らの姿が国民にもっと広く伝えられるよう,望みたい.
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