日医ニュース
日医ニュース目次 第1153号(平成21年9月20日)

勤務医のひろば

緩和ケア科病棟の消える日
KKR札幌医療センター腫瘍センター長 磯部 宏

 当院は四年前の全面改築・施設名の変更を機会に,がん診療のシームレスな対応を目標として,全室個室二十二床からなる緩和ケア科病棟を開設した.長く肺がん診療に携わってきた私にとっては,緩和ケア科病棟は症状緩和や終末期の管理に大変有益な病棟である.
 この間,総合病院の中の緩和ケア科病棟の在り方を模索してきた.その後,「地域がん診療連携拠点病院」に指定され,緩和ケア研修会も開催した.日医監修の「がん緩和ケアガイドブック」が発行されたのも,緩和ケアという言葉が患者・家族や行政に広く浸透してきたのもこの時期である.
 しかし,最近気になることがある.緩和ケアとホスピスケアが同義語とは私は思っておらず,緩和ケア科病棟では症状緩和を積極的に行い,在宅支援も念頭に置いてきたが,看取りの場としての紹介や相談がいまだに多いのも事実である.また,緩和ケア科病棟に入院したならば,バラ色の終末期を過ごせると誤解している患者や家族がいることも事実である.
 積極的治療を行う病棟から在宅療養への移行を支援する,苦痛緩和を専門とする病棟が緩和ケア科病棟と考えている.この苦痛はがん性疼痛だけではなく,心理的・社会的疼痛等の全人的苦痛を意味していることは言うまでもない.この目標達成のため,診療所の医師と顔の見える連携を培ったり,訪問看護師との連絡を密にしたりしている.がん終末期の緊急対応にも日夜心している.
 この全人的苦痛の緩和は何も緩和ケア科病棟でしか出来ないことではない.一般病棟でも全人的苦痛の対応が当たり前となり,緩和ケア科病棟の存在意義がなくなった時に初めて,わが国に本来の緩和ケアが根付き,良質のがん診療が提供出来ると考えている.

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