日医ニュース
日医ニュース目次 第1155号(平成21年10月20日)

勤務医のページ

座談会(第1回)
「勤務医が安心して医療を続けられるために」をテーマに

 日医の勤務医委員会では,七月三日,「勤務医が安心して医療を続けられるために」をテーマに座談会を開催した.今後,四回にわたって掲載する.

勤務医のページ/座談会(第1回)/「勤務医が安心して医療を続けられるために」をテーマに(写真) 池田(司会) 本日は,現場で一生懸命臨床に専念している若い先生方の実感や考えをお聞きしたいと思います.
 三上 今年ほど勤務医の問題に注目が集まった時はありません.今日は皆様の忌憚(きたん)のないご意見をお聞かせください.

医師不足・偏在の実感

 池田 最初に,医師不足や偏在,それに基づく医療機関での過重労働など,その実感についてご発言ください.
 多賀 厚生労働省のデータ等でも明らかですが,関東に比べると北信越は医師が少ないと感じています.当直も月に二,三回,多い人では六,七回はありますし,その翌日も普通に勤務しています.新潟県に関しては,医師数は充足していないと実感します.
 知花 那覇市立病院は救急が非常に多く,医師不足どころの話ではありません.偏在の前に,絶対数が全然足りないことを実感しています.特に,沖縄のように離島を抱えているところでは,人材不足の問題は深刻です.
 小林 後期研修二年目です.初期研修を市中病院で行い,大学病院に就職しました.ベッド当たりの医師数は大学病院の方が一・七倍と多くなったはずですが,多くの医師の残業時間は過労死ライン(八十時間/月)を超えています.過重労働を,日々目の当たりにしています.
 黒木 当院は研修医がたくさん集まる,ある意味で恵まれた病院ですので,病院の中にいると,あまり医師不足を実感しませんが,勤務医としては当直を含めて過重労働の問題があると思います.
 磯和 島根県の人口十万対医師数は,全国平均より多くなっていますが,実感として全くそれが感じられません.私の病院は県庁所在地にあるので,医師数は何とか充足しているほうだとは思いますが,医師が辞めていくのではないかという不安はいつも感じています.

女性医師の問題

 池田 男女共同参画というなかで,女性医師の問題をどう考えているのか,ご発言ください.
 多賀 産休・育休後に復帰する人は少数です.それは,女性側だけの問題ではなくて,やはり受け入れる側の問題,そして配偶者の問題もある.配偶者が医師の場合は,ほとんど戻ってこない.
 新潟大学では,常勤ではなく,九時から五時まで勤務するパートのような形で,大学が雇用するシステムにしたところ,産後の女性麻酔科医が戻ってきた実例があります.勤務先やパートナーの理解,さらには受け入れ側の体制づくりが重要だと思います.
 黒木 女性医師支援という言葉自体には少し抵抗があります.女性医師だけではなくて,「育児・介護支援」のような言葉で,医師の労働環境を整えていく制度,システムがあるとよいと思います.
 磯和 育児・介護支援のシステムが確立されていれば職場に復帰出来るのでしょうか.例えば,カナダの女性医師は,赤ちゃんが小さいうちからベビーシッターに預けてしまう.日本人にそれが真似出来るのかというと,社会状況から必ずしも容易ではないと思います.主治医制というシステムが,女性医師にとっては問題になっているのではないでしょうか.
 小林 私は初期研修二年目に出産し,出産四カ月後,乳児を院内保育所に預けながら常勤として働き出しました.週一回の当直も数カ月後から始めました.病棟が非主治医制であったため,常勤(病棟勤務)も可能でしたが,主治医制でしたら不可能だったと思います.
 知花 出産・育児,その先の介護といった問題は,必ずしも女性だけの問題ではないので,性別を問わず,育児や介護をしている人をバックアップ出来るシステムをつくる必要があると思います.
 私どももチーム制を取っていますので,女性が仕事を続けようと思うのであれば,チームでどうにかカバー出来ると思います.また,女性医師が学会等に行く時に託児所があればいいのですが,完備されているところはまだ少ないです.
 小林 今年四月に学会があり,一歳四カ月の子どもを連れて参加しました.結局,義理の両親,夫と一家総出の大移動になりました.子どもの年齢にもよりますが,人見知りの激しい乳児を託児所に預けるのは現実的ではありません.例えば,子どもと一緒に過ごせる会場内の一室で,モニターを通して発表が見られたり,学会会場の宿泊施設を優先的に使える配慮があればうれしいと思います.
 黒木 主治医制が日本の医師の文化になっているのは,もう少し考えを改め,医師の業務をグループで診ていくという文化を根付かせていく方向が良いと思います.それが出来れば,女性医師の復帰もしやすくなる.
 現場復帰は,医学・医療の進歩に追い付くことを,子育てしながらやらなければいけない.しかし,女性医師をバックアップするシステムは本当に少なく,希薄です.

医師の働き方

勤務医のページ/座談会(第1回)/「勤務医が安心して医療を続けられるために」をテーマに(表) 池田 男性医師の働き方ということも含めて,医師の働き方についてお話しください.
 知花 チーム制は医師の側から見たらよいシステムだと思っても,患者さんの側からみれば,いろいろな医師に診察されるのは嫌だなと思うところもあると思います.しかし,皆で一生懸命診ていれば,チームで一人の患者さんを診ているという文化が生まれてくるので,許容されやすいのではないでしょうか.女性医師が働きやすいところは,男性医師も働きやすくなってくる.医師もゆとりをもって,一人で過重な負担を持たずに分担し合うべきだと思います.
 多賀 私自身もあまり年休を取れません.年休を取ると悪いような気がして,私の病院は年休消化率がすごく悪い.上司が取らないと取りにくいのかも知れませんが,医師自身が意識を変えて,年休を取るのは権利だということを明確にすべきだと思います.
 当然,仕事に穴が空けば,その穴を埋めなければなりませんが,文化として根付かせてしまえば,子育てにもバカンスにも使えると思います.
 小林 国が公に医師を労働者として認めていないところに原因があると思いますが,「年休を取るのは権利以上に義務」であり,実行されていない場合は,管理者の責任が問われるくらいの認識がないと難しいのではないでしょうか.
 磯和 休むとその分の仕事が増えてしまう状況がある.今でも,十分仕事が多いのです.休むとその後が大変だというのが,勤務医にはあると思います.
 黒木 私は一人部長で,一週間休みをとった経験がありますが,現場は結構大丈夫だったようです.私がいなくても大丈夫なシステムをつくるということを考える契機にもなりましたし,いなくても自分たちでやらなければいけないなど,そういう自意識も芽生えました.きちんとリフレッシュすることも,医師には必要だと思います.
 磯和 科による違いもあるのかも知れない.私の科は二人で担当していますが,全責任は自分にあるようなところがあるので,休むことは出来ないですし,休むことが不安なのです.
 また,自分の科以外にもいろいろな業務があります.例えば救急です.救急の当番は休んだらその分だけ回ってきます.普段の業務プラス,エクストラが今の勤務医には課されているのも,大きな問題だと思います.
 黒木 医師は絶対数が少ないと思うので,マンパワーも絶対に大事な要素だと思います.
 磯和 やはり救急の問題を取り上げて欲しい.救急を,自分の仕事とエクストラで夜通し働いているという状況が,勤務医をかなり苦しめていると思います.
 自分の患者さんに,夜中に呼ばれるのであれば,大変だけれどもやりがいがありますが,なかには,なぜ夜間に診なければならないのかと思うような人もおり,それがかなりのストレスになっていると思います.

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