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第1157号(平成21年11月20日) |
座談会(第2回)
「勤務医が安心して医療を続けられるために」をテーマに
新医師臨床研修制度
池田(司会)次に,新医師臨床研修制度についてお話をお願いします.
多賀 臨床研修医の指導医講習会の講師として,いろいろ講習に出て,臨床研修の功罪について話を聞くと,おおむね厚生労働省が目指したような診断能力,初期治療が出来るようにするシステムという意味では,よいシステムなのではないかなという意見に集約されます.
ただ,これがまた来年から変わります.現在の制度がスタートしてから五年間経ち,これまでの効果を振り返って評価したうえで改善していくべきなのに,今回の変更は,今までの反省点というものが活かされていないのではないかと思います.
知花 産婦人科も外科も全部経験し,離島に一人で行っても,十分やっていけるように育てられるシステムのなかで教育されましたので,スーパーローテートは自分に合っていたと思います.
臨床研修システム開始時は,指導医の業務がとても大変だったのですが,教えた研修医が次の研修医を育てるという良い循環が生まれました.研修医が元気な病院には,研修医がドンドン寄ってくるので,結果として,今回の新医師臨床研修制度が医療崩壊を加速させたという話も出ていますが,実際,私たちの病院では,医療崩壊は研修医のおかげで防ぐことが出来たと考えています.これが一年と短くなると,二年目の彼らは,何を目標に,どんなモチベーションをもって研修を続けていくのか不明となり,私たちもどのように対応していくのか難しくなると思うので,今の後期研修医の先生たちと相談しながら,新しい研修医を迎えていこうと思っています.
小林 スーパーローテートは,私にとって有益だったと思います.専門科に入ってからも,内科的対応など役に立つことは多いです.また,二年間におおまかなキャリアパスを描くことが出来たことも結果的には良かったと思います.
黒木 今の臨床研修制度はすごく良いと思っています.マッチングを始めて,学生が真剣に色々な病院を見て,研修を受けたい病院を選んで,短期間のうちに足がかりをつくっていく.これが非常に医学のボトムアップになっていると思います.
ですから,平成二十二年度からの見直しには反対です.大学自体がもっと,教育・研究の質を高めて,研修医を集めるだけの魅力を持つ努力をして欲しいと思います.制度的に研修医を大学に戻そうとする今回の見直しは,何らかの圧力が加わっているとしか思えません.
磯和 研修に来てくれた人は,非常に優秀な人ばかりです.病院自体にも活気が出て,非常に良かったと思っています.
先ほど医療崩壊の話が出ましたが,確かに新医師臨床研修制度がきっかけになって,大学に人が残らなくなってしまった.その結果,地方のなかのさらに地方の病院は,非常に崩壊してしまった.診療科一つが根こそぎなくなってしまったり,病院の存続自体が危ぶまれるところもあります.
これは研修制度が悪いのではなくて,研修制度で学生を取り込めなかった大学の体質が問われているという側面もあるとは思いますが,現実にはそういうことが起こっています.
池田 研修制度が実質一年間になります.その背景には,学部教育のなかで一年次のものは取り込めるのではないかという感触もあるようですが,その辺りはいかがですか.
多賀 医師不足で早急に臨床医を作って,促成栽培と言っては失礼なのですが,二年目から専門医制度,ストレート入局のような形でも出来るようにして,とにかく,すぐ実労働力を増やそうという作戦が見え見えな政策で,研修医のことを思っての変更ではないと,思っています.
知花 医師が足りないのは事実なので,早く現場に出る医師の数を増やすというのは,良いのかも知れません.ただし,医学部の六年生なども,今の研修医の一年目のような感じで,実際に病院で働かせることや,臨床実習をさせるということに関しては,やはりもう少し準備が必要だと思います.
医学部教育もそうですし,またそういう学生に診てもらうとか,診察してもらうことを,患者さんが受け入れるかどうかということも含めてです.
黒木 今の研修医は,わりと短期間で医学的知識を吸収しますし,医療技術も身につけますので,優秀だと思います.
研修医はスーパーローテーションをしているのですが,一年だけのローテーションでは,ある意味まだまだ使いものにはならない.ある程度救急がさばけて,当直に出ても,夜の対応が出来るようになるには,二年間の研修が必要ではないかと思っています.それはスーパーローテーションをしたうえでの話です.
磯和 私は卒業してすぐに呼吸器外科に入局して,ずっと呼吸器外科しか知らないまま来ています.それでも,一応,総合病院ばかり勤務してきて,分からなかったら,すぐほかの科の先生に聞くというような格好で,何とかやれているのです.専門のことに関してはもう全部診るよと,地域のゴールキーパーのようなつもりでいるのですが,医学部を卒業した学生さんが,皆,先生方のように全般を診られる,少なくとも二年間きっちりやらないといけないのかなと,常に疑問を感じています.
最初から眼科医や皮膚科医になるとはっきり決めている人もいると思うのです.もちろん眼科も,皮膚科も,内科的な疾患を知っていた方が良いのは分かっていますが,医師としての人生のうちの二年間をきっちり割かなければならないのかということには,常に疑問を感じています.
小林 例えば,地域医療を目指している人や,まだ,将来の選択に迷っている人にとっては,全科ローテーションは非常に有益だと思いますが,すでに科を決めている人にとっては,従来どおり入局後に関連する科をローテーションする方法で十分かも知れません.二年終了後も,選択の幅は非常に広く,進路の選択,キャリアパスについては,どこに情報を求めて良いか迷うのが現状ではないでしょうか.
黒木 キャリアアップについては,どこにも「道しるべ」がないので,自分の周りに知識がある人や,知っている人の多い方が有利だと思います.
さまざまな医師がいて良いし,臨床研修制度にのらなくても良いのではということについては,私自身は沖縄県立中部病院で研修した経験から,全ての医師はある程度のオールマイティーなベースを持つ方が良いと思います.
私も大学院で一度は試験管を振ったのですが,院で研究するにしても,臨床を知らないと,活かされた研究にならないのではないかと思います.
知花 色々な見方があると思います.本当に最初から眼科や皮膚科などを研究したいという人は,やはり時間のロスだろうと思っていると思います.
多賀 特に教育システムはそういうものなのですが,百人教えて百人全員に効果が出るようなシステムはありません.そして,皆が満足する効果というのもありません.
大学の先生が,臨床病院で勤務して五年経って戻ってきたら,研究面では使いものにならないというのもあるのですが,逆に昔は「大学にずっと長くいると専門しか出来なくなって,臨床病院に出たときに使いものにならない」ということを言われたこともありました.
ですから,どちらから見ても,その立場があるのであって,そのなかで一番良い折衷案というか,集合体の輪のところを見つけるのが良いのではないかと思います
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