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第1163号(平成22年2月20日) |
平成21年度全国医師会勤務医部会連絡協議会
「今こそ目指そう 医療崩壊から医療再生へ」をメインテーマに
平成二十一年度全国医師会勤務医部会連絡協議会(日医主催,島根県医師会担当)が昨年十一月二十八日,島根県松江市内で開催された.当日は,全国各地より,三百七名が参加した.
テーマは「医療再生」
時あたかも政権交代の余波の続くなか,医療崩壊のただなかにある島根県での開催は意義のあることと考えて,プログラムの立案などに当たった.ちなみに平成二十一年十月一日現在の島根県の勤務医実態調査によれば,医師の充足率は七八%,不足数は二百五十九人とされている.また,次年度の初期臨床研修医のマッチング率は三一%と全国で最低であった.
協議会のメインテーマは,戦う気持ちを持って具体的な提案・提言をしていくべしとのことで,ずばり,「今こそ目指そう 医療崩壊から医療再生へ」とした.
勤務医部会の設立状況
全国都道府県医師会の勤務医部会設立状況は,平成二十一年八月一日現在で四十七都道府県中二十九である.この数字をどうみるかであるが,日医の活動に勤務医の意見が十分に反映されてこなかったことを示す数字と言えるであろう.
全国医師会勤務医部会連絡協議会は,昭和五十六年二月に開催された福岡市医師会によるものが第一回で,以後毎年各県医師会の持ち回りで開催され,平成三年度からは,日医が主催し,開催医師会が協議会の実施・運営を担当する現在の形式をとっている.
特別講演
最初の特別講演では,あるべき医療の姿を求めて「日本の医療を守るために─今こそ医師の大同団結を─」をテーマに唐澤人会長が講演を行い,勤務医の置かれている過酷な現状や国民皆保険制度を堅持するための日医の考えを説明した.勤務医負担軽減策としては,入院時医学管理加算の算定要件の見直しや,医師事務作業補助体制加算の施設基準の見直しの必要性に言及したほか,病院勤務医の労働環境の改善は最優先課題であるとの見解を示した.
二人目の演者は,かつて法曹界に身を置かれていた地元出身の郷原信郎名城大学教授で,「社会が医療に求めるもの」と題して講演をお願いした.医療に対する社会の要請にしなやかに鋭敏に反応し,目的を実現していくためには,チームの力が重要であると結論づけられた.
三番目の演者は,中医協委員の一人として勤務医の窮状とその解決策を示してもらうため,邉見公雄全国自治体病院協議会会長にお願いした.医療崩壊に対する新政権の処方に注目するとのことであったが,勤務医部会もガス抜きやヨイショの会であるのなら,ない方がましであるとの意見であった.
シンポジウム
シンポジウムでは,「勤務医をめぐる諸問題」をテーマとした,四人の演者による講演の後,討論を行った.
日野理彦国立病院機構浜田医療センター院長は,地域医療の立場から,勤務医の魅力はまだ認識されているとし,人口減少地域では医療提供システムの再編が必要で,確保すべき医療の質,医師・勤務医の配置・適正数,医師派遣システム,医師の待遇などが再検討されるべきとした.
熊倉俊一島根大学医学部地域医療教育学講座教授は,医育機関の立場から,地方の大学における人材不足が顕著となっており,大学人の待遇改善が必要だとしたほか,将来,地域に根差した医療に貢献する人材を育成するために地域と連携した取り組みが進行しつつあるとした.
内田伸恵島根大学医学部放射線医学講座がん放射線治療教育学教授は,女性医師の立場から,女性医師の参画を進めるための取り組みとして,短時間正規雇用勤務制などについて,島根大学の現状を紹介した.
木村清志島根県健康福祉部医療企画監は,県行政の立場から,七年目に入った県独自の,地域医療を支える医師を「呼ぶ」「育てる」「助ける」を三本柱とした医師確保対策を紹介するとともに,平成二十一年度から五年間で実施する「地域医療再生計画」に基づく事業などについて説明した.
報告
池田俊彦日医勤務医委員会委員長の「日医勤務医委員会報告」につづいて,公平島根県医師会勤務医部会委員から,県内五十六の病院勤務医千二百二十三名を対象として実施したアンケート調査について報告があった.調査結果をまとめると,「勤務医の長時間労働が続いている」「将来の不安や問題は体力(労働能力)である」「臨床研修制度については功罪半ばの評価である.指導医の負担が増加している」といった意見や救急・時間外勤務での負担の軽減に医師会の関与を希望する要望が多かった.また,勤務医の意見を反映する医師会とならなければ医師会は崩壊する(させられる)という意見もあった.
島根宣言
最後に満場一致で,島根宣言が採択された.
一,今までの医療費抑制政策を転換し,医療福祉への予算の増額を行うことを求める.
一,OECD平均水準になるまで医師の増員を行うことを求める.
一,これから増えてくる女性医師が働き続けられるような支援体制の整備を求める.
一,勤務医の待遇改善をはかり,勤務医を増やすことによって,地域医療を存続させることを求める.
一,大学病院と地域医療を担う病院,診療所等が連携し,良き地域医療医を育てる.
一,地域住民との充分な相互理解のもとに,安全で安心な医療を提供する.
なお,この宣言文は,十二月十日付で,鳩山由紀夫総理大臣,長妻昭厚生労働大臣など,関係各方面に送付された.
平成二十二年度が医療崩壊を止め,医療再生へ向けた一歩を踏み出す年となるよう切望する.
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