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第1169号(平成22年5月20日) |
病院組織と勤務医
富山大学附属病院長・脳神経外科教授 遠藤俊郎
私はこれまで大学病院の脳神経外科勤務医として勤め,現在は大学附属病院長を務めている.最近考えることの多い,「病院組織と勤務医とは?」の命題について雑感を書かせていただく.
近年最も影響力のあった経営思想家と言われるPeter F. Druckerは,病院組織とそこに働く者の位置付けについて,さまざまな視点により,記載を残している.
「病院は知識労働と肉体労働の混在する最も複雑な組織である」「組織の中で知識に優れた者は少なくない.だが,彼らが報酬を得るのは知識によってではなく,なされるベきことをなすことによってである」
従来の日本の医療は,このような経済主導の組織論では論じ難い体制の中で維持されてきた.
しかし,われわれの日常の姿をDruckerの論理展開で考えてみると,納得出来る点は多い.特に昨今の若手医師の発想は明らかに変化し,業務に対する報酬の意識が明確となり,知識獲得や追求という無償の行動は軽視される傾向にある.日本の医療界が培ってきた良き伝統を,新しい社会変革の波といかに調和させていくのか,はたまた抜本的な改革に向かうのか,節目の時代にあることを痛感する.
医師は,サイエンス/アートの精神を持ち,医療行為を行う典型的知識労働者であろう.Druckerは「知識労働者は,すべてが現場において意思決定を行うエグゼクティブである」「知識労働者は,自らの知識あるいは地位のゆえ,組織の活動や業績に実質的貢献をなすべきであり,自らの貢献には責任を負わねばならない」「知識労働者は,自らのアイデンティティを雇用者たる組織には求めず,専門領域への帰属意識を強める傾向を持つ」とも述べている.多くの勤務医師は,病院執行部が求めるとおりにはなかなか行動しない.医療界が抱える永遠の課題のようである.
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