日医ニュース
日医ニュース目次 第1177号(平成22年9月20日)

勤務医のページ

生涯教育のあり方
日本大学医学部内科学系総合内科学分野教授 相馬正義

日医生涯教育の位置付け

 生涯教育の充実は,日本医師会(日医)が学術団体であることから考えれば,本会の主な目的の一つであることに相違ない.
 医療は日進月歩にかかわらず,医師は,一度国家試験をパスすると基本的には生涯医師としての資格を問われることはない.一方,国民は常に良質な医療の提供を求めている.したがって,日医は,生涯教育によって,その医師が,ある一定レベル以上の診療能力を有することを国民に保証する必要がある.
 この役割を日医が放棄した場合,将来何らかの別の組織が国民に対して,この役割を負うことになると思われる.既に学会認定による専門医制度は,乱立気味ではあるが広く認知され,定着しつつある.また,各専門医の取得条件やその維持は徐々に厳しくなっている.
 わが国の一次医療を担う医師が生涯教育を行い,その能力を保証されたうえで,良質な医療を提供するという環境は,整備されなければならない.

生涯教育制度の改正

 平成二十一年度までの生涯教育制度は,一括申告制などを取り入れ,申告率は上昇したが,教育評価等は全く考慮されておらず,目的と方略が乖離している状態で,社会的に認知される制度ではないことなどから改正の必要が生じた.
 日医は,生涯教育推進委員会からの答申を受けて,到達目標である『生涯教育カリキュラム〈二〇〇九〉』を制定するとともに平成二十一年九月には,平成二十二年度「日本医師会生涯教育制度」実施要綱を決定した.
 これらは,一般目標を「頻度の高い疾病と傷害,それらの予防,保健と福祉など,健康にかかわる幅広い問題について,わが国の医療体制のなかで,適切な初期対応と必要に応じた継続医療を全人的視点から提供出来る医師としての態度,知識,技術を身につける」とし,行動目標を明確に規定し,八十四のカリキュラムコード(以下CC)を設定し,三年間で三十CCを含む三十単位(一単位一時間)以上の取得で,認定証を発行するというものである.
 また,前文には,「適切な評価を伴った生涯教育を行う」とあり,不十分ではあるが教育カリキュラムとして評価出来るものであるばかりでなく,一般目標は,第V次学術推進会議報告書(平成二十二年三月)にある,本邦における一次医療のあり方や総合(診療)医の育成に合致するものとなった.

新制度開始直後の実施要綱の改正

 新生涯教育制度が本年四月から既に施行されているなか,実施要綱の見直しを求める要望書が日医に提出された.要望を受ける形で日医には生涯教育制度検討会が設置され,検討の結果,二十二年六月付で実施要綱の再改正が行われた.
 しかしながら,改正の要点をみると,前文から「適切な評価」が削除され,単位数とCC数の合計数が六十以上の取得者に日医生涯教育認定証を発行するというものとなった.
 つまり,例えばCCナンバー七十四の高血圧症についての講演を五十九時間聞けば,認定証が発行されるというもので,幅広い問題に対応出来る能力を身につけるという目標と,目標を達成するための方略である実施要綱が乖離してしまったことは否めない.

勤務医にとっての日医生涯教育

 確かに勤務医にとって現在の日医の生涯教育は魅力的なものではない.忙しい仕事のなかで,簡単だから,受けやすいから,取得しやすいから,という理由で受講することは少ない.
 日医生涯教育認定証が価値のあるものと認められ,かつ生涯教育を行うことによって医師としての能力を増すことが出来ると勤務医が考えない限り広く浸透はしないであろう.
 一方,医師の教育環境は,特定機能病院を始め,専門志向が強く,多くの勤務医は専門医として修練を積み,働いている.開業医と勤務医の比率から考えると,開業医に必要な総合的な診療能力を養う環境が少ないことは,多くの勤務医がいずれ開業することを考えると大きな問題である.

日医生涯教育と総合〈診療〉医

 会員の先生方のなかには,厚生労働省が提言した「総合医」に対して,過剰に意識し,反発している方が見受けられるようだが,良質な一次医療の提供という意味では,目標は同じであり,今後は,「総合医」「専門医」についていかにあるべきかをきちんと議論したうえで,日医があるべき姿に向け主体的に進めることこそが大事だと思われる.
 本年四月,日本家庭医療学会,日本プライマリ・ケア学会および日本総合診療医学会が合併し,日本プライマリ・ケア連合学会が発足した.しかし,学会の規模や学会専門医の方向性から,広く一次医療に携わる医師に学会認定(専門)医が浸透するのは困難であるように思われる.現状では,日医が生涯教育を充実させ,一次医療に必要な総合診療能力を得られる環境を整備するとともに,その能力を認定していくことが,医療レベルの向上と国民の負託に応える近道である.

生涯教育カリキュラムの課題

 眼科,耳鼻咽喉科,皮膚科などが内科,外科などと同様なカリキュラムで良いかどうかについては,検討しなければならない.
 眼科,耳鼻咽喉科においても,医療の基本については他科と同様で良いが,症候等については,特に履修の必要な領域を指定するのが良いと思われる.
 これらの専門科の場合は,科別に再検討する必要がある.新制度の導入は詳細を詰めて,周到に準備すべきである.

日医生涯教育のこれから

 生涯教育実施要綱の二十二年六月改正では,要綱について,「継続的に見直しの検討を行う」との文言が入っているところが良い点である.
 わが国の一次医療に携わる開業医と勤務医に対し,適切な生涯教育の機会を提供し,その診療能力を保証することが出来るのは日医以外に存在しない.
 日医は多種多様な医師の会員で構成されている大きな組織であることから,教育システムの完成には長年月を要すると思われる.
 それゆえに,教育目標をしっかりと掲げ,着実に実績を上げ,広く社会に認知されるものとしなければならない.
 今後の日医の取り組みに期待したい.

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