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第1179号(平成22年10月20日) |
総合病院精神医学のお勧め
名古屋大学大学院教授 尾崎紀夫
年間三万人を突破し続けている自殺者を減少させることは,国家的重要課題である.警察庁は,「平成二十一年中における自殺の概要資料」で,自殺の動機を細かく特定している.動機が特定出来た二万四千四百三十四人中,「身体の病気のことを悩んでいた」自殺者が,五千二百二十六 人(二一・四%)に上っている.アメリカのがん患者の自殺率は,一般人口と比較して肺五・七倍,胃四・七倍,口腔・咽頭三・七倍など,極めて高率である.
しかし,一般のみならず医療関係者のなかにも,「身体の調子が悪ければ,落ち込むのは当たり前」として,身体疾患患者の精神医学的問題が重視されない傾向を感じる.また,今でこそ,緩和ケア加算が保険点数化され,事情は変化しつつあるが,かつて「総合病院の精神科は不採算部門」として,切り捨てられた時期もあった.
身体疾患にうつ病等の精神疾患を合併する頻度は高く,精神疾患の合併は,身体疾患の予後(死亡率等)を悪化させる(Lancet, 二〇〇七).例えば,冠動脈疾患や心不全患者はうつ病を合併する頻度が高く,うつ病の合併が心関連イベントの再罹患率や死亡率に影響することが,欧米からは繰り返し報告されている一方,本邦の総合病院精神医学研究は乏しい.
現在,我が国の総合病院精神科は,担い手となる精神科医の不足から危機的状況にある.この分野は,臨床のみならず,研修医等への教育,そして研究を重ねて医療の改善へと結び付けることが求められている.
我々は,小児がんを含む精神腫瘍学,周産期精神医学,循環器精神医学などの臨床と研究を実施している.一人でも多くの医師が,この分野に興味を持ち,参加することを期待している.
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