日医ニュース
日医ニュース目次 第1185号(平成23年1月20日)

勤務医のページ

女性医師のキャリア形成支援:東京女子医科大学における男女共同参画
東京女子医科大学男女共同参画推進局女性医師・研究者支援センター長 斎藤加代子

「ガラスの天井」と「水漏れパイプ」

 医師国家試験合格者に占める女性の割合が四〇%になりつつある現在でも,大学にて診療や研究を継続し,リーダーシップをとり活躍する女性医師は極端に少ない現状がある.意思決定権を持つ女性の割合を示す指数Gender empowerment measure(GEM)は,わが国は世界百九カ国中五十七位であり,この現状の背景は「ガラスの天井glass ceiling」と「水漏れパイプleaky pipeline」に例えられる.「ガラスの天井」とは,「突破出来ない目に見えないバリアー」であり,「水漏れパイプ」とは,「到達する前に漏れていく状況」である.医学・医療の現場では,本人の意識の中にも,置かれた環境の中にも障壁が存在すると言える.
 東京女子医科大学は,世界的にも数少ない女性のための医科大学であるが,本学においても,育児のために医学を断念する女性医師は多い.初期および後期臨床研修期間の七年間までは全体に占める女性医師の割合は六〇%を超えているが,三十代を過ぎると急速に五〇%を切り,指導的立場の女性医師は先細りになっている.
 医学部医学科における女性研究者,女性教員のロールモデルの不在が(女性)医師不足の原因の一つとして挙げられる.医学部医学科における女性教員を増やすこと,女性医師・研究者が勤務を継続出来る環境整備をすること,多様で優れた女性医師・研究者の活躍を促進することは,わが国における医師不足の対策としても喫緊の課題と言える.

東京女子医科大学の取り組み

 東京女子医科大学では,指導的立場となる優れた女性医師・研究者の育成を行い,育児支援と女性医学研究者支援のモデル形成の目的で,平成十八年度から文部科学省科学技術振興調整費を受け,「保育とワークシェアによる女性医学研究者支援」を実施.院内保育所に病児保育室を開設するとともに,フレックス勤務を含む勤務形態の多様性の導入を開始した.平成二十一年度からは,女性医師・研究者支援の充実を目指し,「男女共同参画推進局(局長:学長)」の下に「女性医師・研究者支援センター」が発足.職員・学生父母・同窓会・卒業生達の温かい賛同と支援にて「女性医師・研究者支援基金」も形づくられた.
 女性医師・研究者のキャリア形成において,(1)子育て支援(2)勤務環境の改善(3)生涯教育・研究への支援─が必要である.厳しい時期にも医学研究を,医療を継続するという各人の意識改革にもつながるように,卒前教育としては,リーダーシップ教育・キャリア教育を実施し,卒後には,子育てと診療・研究の両立が可能な体制を構築し,さまざまな状況において困難に直面している女性医師に,診療の継続や研究の遂行を可能とするシステムを形成しつつある.
 第一に挙げられる「子育て支援」では,保育支援による次世代育成の継続推進として,人材不足の周産期医療におけるファミリーサポート事業による支援策を立ち上げた.「女子医大ファミリーサポート」は,地域(新宿区)と連携し,地域住民や周辺学校,NPOなどからサポーターを募り,多用なニーズに対応する支援体制である.保護者の病気や急用時の子どもの預かり・保育所の送迎など,きめ細やかな支援が可能となるように,平成二十三年四月の開始を目指して,サポーター対象の「子育て支援セミナー」を実施している.第一回セミナーでは,四十一名のサポーター候補の登録と受講があった.
 第二の「勤務環境の改善」では,「働き方の多様性を考える会」が結成され,勤務環境整備が検討された.短時間勤務制を診療現場に導入し,卒業生の宮原敏女史の寄付による「宮原敏基金・女性臨床医師支援の短時間勤務」を平成二十三年度から開始する.女性臨床系教員が学位や専門医取得,診療上の特殊技能獲得などキャリア形成を図ること,臨床能力の優れた教員を確保して充実を図ることが目的である.
 第三の「生涯教育・研究への支援」は,前述の「女性医師・研究者支援基金」にて一年間に二名を,卒業生佐竹高子女史の寄付による「佐竹高子女性医学研究者奨励金」として一名を,フレックス制短時間勤務特任助教として研究支援している.そこでは業績評価と論文提出を義務付けている.
 これらの支援を受けた女性医師が所属部署に戻り,キャリア支援の成果をフィードバック出来るように,終了後の常勤勤務への復帰が必須条件である.以上のような環境整備の下に,当事者である女性医師自身が自己を磨く意識を高め,医学・医療を通して社会への貢献と還元をしていく自覚が重要である.

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