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第1199号(平成23年8月20日) |
救急部と総合診療部の合体がもたらしたもの
福井大学医学部地域医療推進講座教授 寺澤秀一
福井大学病院では,平成十五年から救急部と総合診療部を合体し,図1に示すような四群の医師養成に挑戦してきた.シニアのスタッフはそれぞれの部署に固定しているが,ジュニアスタッフは応援し合い,専門研修医は希望によって両部署での研修が可能であり,初期研修医は両部署での研修を義務としている.この合体運営によって,以下のような変化が出現した.
一,マンパワー不足の補い合い
総合診療部は主に平日の日中の外来が忙しいし,救急外来は夜間や週末が忙しい.両部署の忙しい時間帯がほぼ逆であるため,それぞれの部署としてはマンパワーが十分でなくても,双方が応援し合えるので,医師の疲弊を防ぐことが出来るようになった.
二,屋根瓦チームによる交代勤務
総合診療部外来,及び一次救急から三次救急まで受け入れる救急外来での初期診療を,常に初期研修医+専門研修医+スタッフ医師のチームで行うことが可能となり,初期診療の質の向上,そして大学病院における患者数増加にも大きく貢献してきた.また,平日の午前中には総合診療部から救急部へ,夜間の救急外来から翌日の午前中の総合診療部外来への患者紹介もスムーズであることは言うまでもない.
特に,合体によって,救急外来における二交代ないし三交代勤務が可能となり,三百六十五日二十四時間体制の維持は極めて容易になった.この交代勤務が実現してから,救急外来における診療過誤やクレームは激減した.
三,両部署の専門研修の充実
救急外来における勤務中に,総合診療部の医師と救急部の医師が混じり合って働くため,双方向に良い刺激的な教育効果が現れている.三次救急の患者が搬送されてきた場合に,総合診療部の医師達は,救急部の医師から多くのことを学べるし,一次救急の患者の診療においては,救急部の医師達が総合診療部の医師達から多くを学ぶことが出来るのである.これによって,「救急にも強い総合診療医,家庭医」が育ち,また,「家庭医の心をもった救急医」が育つのを目の当たりにしてきた.
四,両部署のマンパワー増加
救急部も総合診療部もマンパワー確保には苦戦している施設が多いようであるが,福井大学病院では平成十五年の両部署の合体以後,入局者が倍増し,五十名を超える入局者(平成二十三年四月現在)を迎えることが出来ている.面白いことに入局者の八割は福井大学以外の大学の卒業者である.このことは,救急と総合診療の両方を区別しないで研修する場を求めている若い医師達が全国にいることを示していると言えよう.
五,医学生,初期研修医の教育の充実
現在の初期研修医はほとんどの時間を入院患者の検査や治療の研修に費やしているが,紹介状なしに症状を主訴に登場した患者が受診する総合診療部外来や救急外来に受診した患者に,本来は暴露されるべきなのである.医療面接によって鑑別診断を考え,理学的所見を予想しながら必要な部位に重点的な診察を行い,確定診断に至る検査を考えるという訓練こそが,初期研修に必要な研修なのである.
救急部と総合診療部の合体によるマンパワーの充実は,まさしくこの研修の充実につながり,初期研修医の確保につながり,施設のマンパワー確保につながるはずである.
北米では既に救急医と家庭医の両方の認定医の資格が取得出来るコースが始まっている.両部署の合体に対して「中途半端な医師しか育たない」という批判を聞くが,筆者は,これまで「境界領域を凌(しの)げる医師を養成してこなかった」ために,今の医療危機が起きたと見ている.
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