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第1201号(平成23年9月20日) |
勤務医座談会(第1回)7月13日開催
「勤務医が果たす社会的使命〜医師会の役割と勤務医の役割〜」をテーマに
日医の勤務医委員会では,七月十三日,「勤務医が果たす社会的使命〜医師会の役割と勤務医の役割〜」をテーマに座談会を開催した.今後,三回にわたって掲載する.
泉(司会) 本日は,「勤務医が果たす社会的使命」,特に医師会の役割と勤務医の役割について,先生方の考えをお聞きしたいと思います.
三上 東日本大震災に係る活動の中で,勤務医や開業医の区別のない,医師としての本分を再確認しています.本日は,忌憚(きたん)ないご意見をお聞かせください.
勤務医の生きがい
泉 勤務医の生きがい,あるいはやりがいについてお話しください.
三ツ木 患者さんから感謝されるような診療が出来た時や,チーム医療や同じ診療科の医師の集まりなどにおいて,お互いを高め合うことでやりがいを感じることがあります.しかし,患者さんからのクレームがあると,モチベーションが下がり,やりがいを失ってしまいます.
伊藤 患者さんとの良い関係を保ちながら無事に退院してもらうことは,良かったという意味で,やりがいだと思います.また,手技も含めて,新しいことにチャレンジしていくこと,さらには,教育的な部分で,若い人たちの成長に関わっていくことも,ある種のやりがいを感じるところだと思います.
内藤 大学病院で働いている人間として,学生や臨床研修医に教育をして,彼らが各科で専門家になって働くのを直に見るのは何よりもやりがいを感じます.大学病院の特徴として,珍しい症例が集まるので,それらを基に研究計画を立て,臨床研究をしていくこともやりがいを感じる部分です.
安達 患者さんから「診てもらって良かった」と言われる時が,医師で良かったと思う時です.特に在宅療養支援の勤務医として訪問診療をしていて,患者さんの家族とダイレクトな関わりでそれを感じるのが一つの大きな生きがいです.
また,大学病院で,コンサルテーションという形で主治医のチームに関わっている中で,「チームに関わってもらって良かった」と言ってもらえると,良かったと思うことが多いです.
鈴村 小児科医として働き始めて三カ月半になりますが,日常生活に関わりを持たなければいけない患者さんを担当することが多いので,医師だけのアプローチでは力が及ばないと思います.薬剤師の服薬指導,栄養管理士の栄養指導,看護師の記録等が力になります.コメディカルとの連携を取りながら,勤務医としていろいろな人と働くことが出来ることはありがたいと思っています.
三ツ木 何人かの医師,スタッフがチームとして,一人の患者さんの診断から終末期までを診ることが出来ることが勤務医の最大のメリットであり,やりがいだと思っています.
特にがんを診ていると,さまざまな領域のスタッフと関わりながら治療をしますので,私が腫瘍内科をやる限りは勤務医でないと出来ない部分がかなりあります.
伊藤 循環器の診療も手術的なことが多く,危険を伴うこともありますが,そういう治療を受けることが必要な患者さんを,病院の主治医として診て,退院まで持っていく.責任は重いけれども,やりがいのある仕事が好きなので,勤務医をしています.
内藤 教育と研究に関しては,勤務医の方が間違いなくフィールドは広いと思うので,開業しようと思ったことは一度もありません.今後も多分ないだろうと思います.
鈴村 勤務医として働くメリットの一つに,同期や先輩がいつも周りにいるというところが大きいと思います.挫折しそうな時に周りの頑張っている人の姿を見ることが頑張る力になっています.
三ツ木 コメディカルのモチベーションを上げて,いかに実力をつけてもらうかということも今後の課題だと思います.チーム医療のリーダーとして,キャプテンシーを発揮するなどといったやりがいもあると思います.
安達 地域では医療者だけではなくて,介護職を含めた連携の形になっていますし,病院ではチームでコンサルテーションをしているので,常に多職種と共に活動しています.それぞれがプロフェッショナルの立ち位置できちんとアプローチすることによって,お互いに手を抜けるところと支え合えるところがあると思いながら仕事をしています.
伊藤 コメディカルとの連携について,例えば,臨床工学技士という職種がありますが,ある程度の信頼が出来ると円滑に分業が出来ます.彼らは非常に高い専門性を持っていますので,逆に医師が教えてもらうようなところもあって,良い関係になってきていると思います.
勤務医の労働環境
泉 給与面も含めて,労働環境についてご発言ください.
内藤 大学病院にいる医師は年齢層も若いし,大学病院で勉強して,その後,一般病院に入ったり,開業していくということを考えれば,開業医と給与の差が出るのは当たり前だと思っています.ただ,給料をあげられない代わりに,研究の題材や難しい手技,珍しい症例など,興味のあることをやってもらっています.また,論文の執筆時間等,時間的な意味で少し余裕をあげることが大事だと思います.
私たちの医局では,年間三週間の有給休暇があり,強制的に休みを消化させます.部下を休ませるために,上司も必ず休みます.開業医で年間三週間休める人はいないと思いますので,そこは労働環境としては利点だと思います.
伊藤 当直は,実際には宿直ではなくて,夜勤をしているわけですし,当直明けでも同じように仕事をしています.そして,主治医である限り二十四時間何となく拘束されていて,実際に呼ばれることもあります.純粋に医師が労働者であるという視点から言えば,私が医師になってからの四半世紀の間に労働環境は改善されていません.
医師不足の議論の中に,勤務医がこういう時間で働いているということをカウントした議論があまり目につかないので,そういった視点を盛り込むことも必要だと思います.
三ツ木 当直後も働かなければならない状態,大学病院であれば休日と夜間にアルバイトをしなければならない状態,あるいは休みが取れない状態は,やはり二十五年間あまり変わっていません.
安達 研修医よりもオーベン(指導医)レベルになった時の方が労働環境は厳しいと思います.福利厚生が充実してきて,昔より若手医師は守られていると思うので,それで何とか頑張っているとは思いますが,医局自体にいる医師数によって,QOLはかなり違うと思います.
内藤 日本人の気質なのかも知れませんが,いくらグループで診て,この人が当番ですと言っても,患者さんが亡くなった時に,「主治医が来てくれなかった」と言われます.そこがうまく解決出来ないと,つらいと思います.また,患者さんの家族の仕事の都合などから,夜間や休日に不急の病状説明を求められることも少なくありません.
アメリカなどでは,患者さんは医師が定時に帰るのが当たり前だと思っているので,それに対して何の苦情もありません.その辺りは,患者さんの意識も変えてもらわないと難しいと思いますので,「夜間や休日の病状説明はなるべく控えてください」などというテレビCMを流してくれれば,少しは仕事が楽になると思います.
伊藤 夜は当番の医師が診るということで,すっきりして良いと思いますが,自分が逆の立場で見慣れない患者さんを診るのは結構大変だとも思うのです.そういう制度にする上で,引き継ぎが長引いたり,実際に望ましくないことが起きたりすることはないのでしょうか.
内藤 アメリカのhospitalistは病院総合医で,夜間当直だけを診ているプロもたくさんいるわけです.医療費の問題では,hospitalistを雇わなければならないという部分があって,費用はかかるのですが,しっかりと分業されています.
しかし,日本では「主治医が日曜日には来ていない」「夜間に電話をしてもあまりいない」等と言われるなど,人情的な問題があり,実際にそういった制度を取り入れるとなると,かなり難しいと思います.
三ツ木 労働環境を改善するために,単純に医師数を増やせばいいかと言うと,診療科によって,大きな差があると思います.絶対的に医師が足りない診療科の労働環境を考えなければならないと思います.
内藤 仕事内容の整理の問題もあると思います.医師がしなければならないこと,例えば,「診断書は本当に医師が書かなければならないのか」ということから始まって,私のやっている仕事も三分の一程度は誰かに肩代わりしてもらえると思います.その辺りの整理が出来れば,必ずしも医師の人数を増やさなくても,コメディカルや事務員の人数を増やすことでカバー出来る部分は大きいと考えます.
勤務医座談会 出席者 |
泉 良平【司会】(日医勤務医委員会委員長・富山県医副会長)
安達 昌子(慶大医学部助教・野中医院)
伊藤 英一(新潟県立新発田病院内科部長)
鈴村 水鳥(名鉄病院)
内藤 俊夫(順天堂大医学部准教授)
三ツ木健二(国家公務員共済組合連合会浜の町病院部長)
三上 裕司(日医常任理事) |
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