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第1203号(平成23年10月20日) |
勤務医座談会(第2回)7月13日開催
「勤務医が果たす社会的使命〜医師会の役割と勤務医の役割〜」をテーマに
女性医師の話(労働環境)
泉(司会) 労働環境に係る女性医師の問題についてご発言ください.
鈴村 私たちの世代は恵まれていて,労働環境が整備され始めているところで働くことが出来たということに,感謝しなければいけないと思っています.
以前,体を壊した際に,体を壊すと医師という仕事を長く続けることは出来ないと痛感したので,スタートダッシュは速くなくても,自分のペースで,でも絶対に医師を辞めないというつもりで今の病院を選択しました.当直明けの午前中は働きますが,午後からはあえて勇気を持って帰るようにしています.
三ツ木 今の研修医は,あまり夜中に呼び出されたり,週末に働かなくてもいいような科に入局している傾向を感じる時があります.特に外科医は減少しているという話なので,システムをどのようにすべきか考えていかなければなりません.
内藤 泉先生から「休みが取れれば女性医師は増えるか」と聞かれましたが,女性医師が休んだ時に,誰がカバーするのかという話にもなります.
カバーする男性医師の負担は大きいです.更に,大学病院に限らず,医師の難しいところは,働いている医師と働いていない医師の将来的な違いがどう出るかということです.例えば,朝から晩まで病棟を診て,夜に論文を書いている男性医師が,産休で論文だけ書いている女性医師に業績で負けてしまう可能性もあるわけで,それは男性医師から見て公平に感じられないのです.
むしろ,女性医師が働きやすい仕事を作るということも大事だと思うので,私どもの科で言うと,例えば人間ドックのチームや感染症のコンサルトなどは基本的に定時の労働時間になっています.女性医師がやりやすい仕事を作って,希望する女性医師をオープンに受け入れることが一番大事だと思います.
安達 現在,大学で所属している部門では,ほとんどが女性です.子育てをしながら一緒に仕事しているチームはたくさんありますし,出産後間もない人も復帰して一緒に働いています.女性同士でうまく補完し合うことで機能しているとは思いますが,ただ,定時できっちりというよりは,その日によって代わりに誰かがバックアップするという形になっています.その辺りは,やり方次第だと思います.
伊藤 女性医師が働きやすい環境は男性医師も働きやすいはずです.では,誰がサポートするのかということに結局,尽きると思います.ネックになるのは,ほとんどが育児の一定期間ですが,そこを医師の世界だけで支え切るのは難しいと思います.こういう話は医師特有の話とは必ずしも言えないところがありますが,そういう点で社会の環境は相変わらず悪いと思います.
鈴村 女性医師が仕事を続けるポイントは,学生教育だと思います.東京女子医大の同級生でハードと言われる産婦人科や小児科に入局した人は二桁に上ります.また,心臓血管外科や循環器小児科などといった,更に専門性の高い分野に進んでいった友人も多いです.
それは,学生時代にチュートリアル教育があったり,授業中に女性医師の先生が実際に研究や診療をしながら子育てをし,教授になられた経験談を聞くことが出来たり,また,女性医師だけではなく,男性の先生が,育児等があっても医師を辞めずに戻ってきて欲しいと,授業の合間にずっと話してくれたからだと思います.先輩のロールモデルをたくさん見ることが出来たということもありますが,学生教育の段階で,先生から「絶対に医師を辞めるな」ということを強く言われ続けたことが心に強く残っています.
伊藤 あるシンポジウムで,フロアからのベテラン女性医師の発言と,登壇している比較的若い医師の発言が,噛み合っていないということもありました.世代間の意識のずれなどもあると思います.
安達 私が医師になった時は,「女性医師だからしょうがないと思われたら,医師としての自分の立ち位置が見えなくなるから,それはないように頑張りなさい」とずっと言われてきました.
ただ,育児等と仕事を両立させるという時点で,昔から思っていた信念があったとしても,その時の状況やサポート体制によって,就業を継続出来るかどうかということはあると思います.
地域医療連携
泉 地域医療連携についてご発言ください.
伊藤 必要に迫られて連携をしているのが現実だと思います.我々も外来を極力減らす方向で,地元の医師会の先生方とコミュニケーションを取っていますし,分業しないと成り立たない状況にあります.
私の病院では,医療圏内の救急車を全て受け入れます.急性期が終わった人たちはなるべく地域に戻すのですが,困っているのは亜急性期の病院や施設がないということです.
医療機関の役割分担の推進は必要なことだと思うのですが,それが必ず地域のニーズと常にマッチしているかというと,そうでもない場合があるように見える時があるので,そこを調整する機能が必要だと思います.
ポスト・アキュートの問題はもっと深刻になってくると思うので,勤務医が急性期の医療だけを行うという立ち位置では難しくなってくるのではないでしょうか.
三ツ木 厚生労働省の方針として,自宅で看取るということを推進していますので,そういった意識を持って我々の病院も対応しています.
開業医もモチベーションの高い医師が福岡市内の場合は多いので,患者さんがその気になって,家族や開業医が良しとすれば,うまくいくのですが,老老介護の問題も出てきています.そういう方の療養先に困っている現状もあるので,単に急性期病院と開業医が連携すれば解決するというレベルの問題ではなく,その中間施設が必要になると思います.
安達 専門医の先生に診てもらうところと,患者さんの生活を見ながら診ている診療所との連携はこれからキーになっていくと思うので,病院の専門医と地域診療所医師が協働して患者を診ていくということが大切だと思います.どうすれば患者さんが安心出来る連携が持てるのかということに,もう少し力もお金もかけなければならないと思います.
バックベッドという意味では,地域の中で明らかに資源として不足しているので,例えば医師会が病院を持っていてバックベッド機能を果たすという地域もあると思いますし,心ある病院が,患者さんのために少しバックベッドを空けているという地域もあると思います.
地域の有床診療所は,経済的には採算が合わない中で,必要だからやっているというところが多いと思います.例えば地域の病院の中に,医師会が関係することによって,少しベッドをキープさせてもらうなどといったアイデアを持って,医師会が調整機能を持てば,地域の医師が医師会に入って一緒にやって良かったと感じると思います.
三ツ木 例えば,連携の中で退院調整をどうするかということでは,退院時共同指導料などの診療報酬があって,私どもの病院では退院調整をきちんと行っています.
内藤 専門の部署がありますので退院調整を行いますが,大学病院では,開業医と密に連携を取るのが難しい部分もあります.
また,患者さん自身が帰りたくないという場合もあります.それは大学病院の医師が良いというわけではなくて,大学病院で診てもらっていると,何かあった場合にすぐに入院出来るので,という意識がどうしてもあります.
理想としては,地域の開業医の方に週に一回ぐらい大学病院の外来をやってもらいたいのです.我々も勉強させてもらうことが多いでしょうし,逆に大学病院でいろいろ学んでもらうことも多いと思います.
安達 病院機能として,大学病院は市中の基幹病院とは違うと思うので,連携の仕方が少し変わってくると思います.一番地域密着で開業医と連携するのは,地域の基幹病院になると思うので,うまくカンファレンスなり,連携が出来ることが大事だと思います.
内藤 診療報酬のことも含めて,大学病院の医師は連携などについてもっと勉強しなければいけないと思います.
鈴村 小児科に入ってからは,入院,外来の毎月のレセプトのチェックをしています.
連携ということでは,臨床研修の話になりますが,開業医と基幹病院が集まって,病院の先生が症例を発表したり,研修医が発表したりなどという機会もありましたし,地域医療研修もありました.現在の臨床研修制度は,在宅や地域連携に重きを置いているので,それは良かったと思います.
安達 私の医院には,地域の病院から毎月,初期臨床研修医が来て,有床診療所の医師として研修してもらうのですが,医療の楽しさを改めて実感したとか,退院調整の重要性が分かったなどという意見が,アンケート結果で出ています.
勤務医座談会 出席者 |
泉 良平【司会】(日医勤務医委員会委員長・富山県医副会長)
安達 昌子(慶大医学部助教・野中医院)
伊藤 英一(新潟県立新発田病院内科部長)
鈴村 水鳥(名鉄病院)
内藤 俊夫(順天堂大医学部准教授)
三ツ木健二(国家公務員共済組合連合会浜の町病院部長)
三上 裕司(日医常任理事) |
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