日医ニュース
日医ニュース目次 第1211号(平成24年2月20日)

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新型インフルエンザ対策 行動計画の改訂のポイント
順天堂大学大学院感染制御科学 堀 賢

 新型インフルエンザ対策行動計画が昨年十月十二日に改訂された.新型インフルエンザパンデミック二〇〇九で明らかになった不具合を再検討して反映しているが,改訂の方向性を巡っては,賛否両論が渦巻いている.今回の改訂のポイントとその問題点を検討する.

一,海外発生期における問題

 ポイント1.世界保健機構(WHO)でPhase-4が宣言されたら,政府対策本部(本部長は首相)を設置し,水際対策を強化するために検疫を維持し強化する.
 そもそも潜伏期間にある曝露患者を問診や検査で発見することは非常に困難である.元来,検疫については流入阻止や遷延のエビデンスがなく,先のパンデミック二〇〇九では国内第一例は検疫発見例より四日も早かったのに,なぜ検疫体制の強化を打ち出したのか.
 ポイント2.Phase-4において流行地の定期便の運航中止を要請する.
 世界的に見ても,パンデミック二〇〇九でもWHOは渡航制限を出さなかった.検疫の実施と合わせて,「効果が実証されていないなら,実施しない」という合理的判断から乖離している.
 ポイント3.保存プレパンデミックワクチンの製剤化と接種開始の検討をする.
 これはH5N1を想定した条項だが,保存株の亜型や想定外ウイルス株に対しては効果がない.グローバル化が進んだ現在では,海外発生から国内侵入まで一週間程度しか時間的猶予がないため,生産量も充足しないのである.もはやプレパンデミックワクチンなど,ないものとして行動した方が良い.

二,国内発生早期における問題

 ポイント4.積極的な拡大防止策で封じ込めを狙う.医療提供体制の確保のために,帰国者・接触者外来,及び同相談センターを設置する(発熱外来の廃止).感染患者の指定医療機関への入院措置を行う.
 パンデミック二〇〇九では,指定医療機関へ患者が集中したことで診療に混乱が生じたことなどから,医療圏における一次医療機関と高次医療機関の役割分担を再定義する必要がある.発熱外来の名前を付け替えるだけではなく,受け皿としての一次医療機関の整備をパンデミック前から積極的に進めるべきである.具体的には,既存診療所などに補助金を投入し,感染予防に配慮した改装や設備の刷新などを図っておくのはどうか?
 ポイント5.封じ込めのための集会・興業の自粛を要請し,学校・保育園の臨時休業を要請する.
 最近のニュースでは,国がウイルスの毒性が強いと判断して緊急事態を宣言した場合には,強制的な土地借り上げなど私権制限を可能にする特措法を国会提出する方向で進んでいる.安易な私的権利の制約を避けるためにも,毒性についての定義を明確に定めておく必要がある.
 ポイント6.これまでの政府対策本部による一元対応を改め,地域の発生状況により,都道府県単位で,地域未発生期,地域発生早期,地域感染期の三期に分けて対応することが明言された.
 パンデミック二〇〇九では,五月二十二日現在で,関西は感染拡大期(第三期-一)であったが,東京は国内発生早期(第二期)であり対応に柔軟性を欠いた.今回はこれを反省したものであるが,自治体ごとに人口や情報収集のインフラ整備状況も異なるので,正確な判断が都道府県レベルでは困難であろう.この実現のためには,政府対策本部への情報の一方的な集約だけではなく,質の高い情報を一元的に供給し発信する必要がある.更に,労働者の多くは県境をまたいで移動するので,都道府県単位ではなく,経済圏を念頭に置いた,より広域なブロック対応を検討した方が,実際的ではないか.

三,国内感染期

 ポイント7.感染症の拡大に対しては,封じ込めから被害軽減にシフトする.医薬品・食料品等の緊急物資の円滑な流通の確保を要請する.
 パンデミック二〇〇九では,当初から医薬品や防護装備(PPE)の供給がストップし,一次医療機関では混乱を極めた.
 医薬品やPPEについては,国内発生早期の段階で安定供給出来るように要請を発令すべきである.またPPEについては,備蓄開放の目的を「流通量のコントロール」へ変更してはどうか?
 今回はパブリックコメント募集期間も非常に短かったが,広く意見を募集しながら柔軟な対応策へのブラッシュアップを期待したい.

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