日医ニュース
日医ニュース目次 第1217号(平成24年5月20日)

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平成22・23年度 勤務医委員会答申
「すべての医師の協働に果たす勤務医の役割」

 今号では,平成二十二・二十三年度勤務医委員会(泉良平委員長)が会長諮問「すべての医師の協働に果たす勤務医の役割」に対して取りまとめた答申書の概要を紹介する.

第一章「協働がなぜ厳しいのか」

 第一章は,(一)厳しい労働の現状,(二)社会的/潜在的偏見に根ざす問題,(三)社会参加しようとする意欲の低迷,(四)医師組織の現状─皆が信頼し集う団結の場がない─から構成される.
 (一)では,男性医師と女性医師の現状を対比しながら厳しい就労状況を示した上で,過重労働等の改善に向けては,さまざまな取り組みが実施されているが,目に見える効果には至っていないと指摘.就労環境の改善なくして医師の協働は難しい,としている.
 (二)では,協働の大きな阻害要因の一つとなっているジェンダーの問題を取り上げ,男女格差の要因となっている固定的性別役割分担意識や,ガラスの天井問題などを説明.全ての医師が,その能力を遺憾なく発揮するためには,男性医師はもちろんのこと,女性医師自身も意識改革をすべきであり,社会全体の意識改革の取り組みも必要である,と結んでいる.
 (三)では,東日本大震災において多くの医療職員や若手勤務医師がJMAT等に参加していることを挙げ,社会参加には言葉や理念だけではなく,何らかの契機が必要であることが証明されたとする一方で,全員が同等に貢献することは難しいことも明らかになったと指摘.お互いの多様性を認めつつも,大きな目的に向かって共に行動する必要があるとしている.
 (四)では,勤務医が医師会に何を求めているかを伝える必要性と手段を認識していないだけでなく,医師会にもそれを拾い上げる細かいネットワークがないと指摘.地道に成すべきことを成しながら後輩の勤務医に思いを伝え,そこに日医から将来の医学・医療の目指すべき方向性を示すことが出来れば,多くの勤務医は医師会に結集するだろうと述べている.

第二章「協働が期待され求められる場」

 第二章は,(一)災害医療〜東日本大震災での気づき〜,(二)医療安全・医療事故への対処,(三)終末期医療,(四)地域医療連携,(五)医学教育と医療技術の向上,(六)医療への信頼感の醸成─から構成される.
 (一)では,眼の前にいる患者を助けたいという医療の原点の下に,JMATを始めとする多くの支援が,勤務医,開業医の区別なく協働で行われた岩手県の例を紹介.今後は,急性期,亜急性期,長期に対応する医療,介護,福祉などの共同チームを県単位で編成し,訓練することが必要としている.
 (二)では,(1)診療関連死,医療事故調査委員会への勤務医の参加(2)医療メディエーターの果たす役割─について述べられている.
 (1)では,昨年6月に日医の医療事故調査に関する検討委員会答申に示された基本的な考え方に本委員会は同意するとした上で,院内医療事故調査委員会や医療事故調査第三者機関の設置,ADR等に係る課題や問題点を考察.各委員会や機関等への勤務医の参画システムと各担当委員の教育・指導システムの構築を早急に確立すべきと結んでいる.
 (2)では,患者側・医療側の両者の根底には適切で安全な医療が必要という共通の観点があるはずであり,そこに向かって対話を進めていくことが問題解決の糸口になるとした上で,医療メディエーターの役割を説明.医療メディエーターを養成し,医療機関へ配置することは医療従事者のストレス軽減に大いに役立つとしている.
 (三)では,終末期により良い緩和ケアが誰でも受けられる医療体制と診療報酬を構築した上で,終末期医療の自己決定権を国民に啓発し,それを本人に委ねることが重要であるとしている.
 (四)では,地域医療の多様性等を踏まえると,厚生労働省が打ち出した四疾病五事業は画一的で,マニュアル化され過ぎていると指摘した上で,地域医療連携を軌道に乗せるためには,基幹病院の外来機能の縮小と診療所機能の底上げがなければ成功しないとして,入院にかかる診療報酬の引き上げと,診療報酬の手厚い配分を求めている.
 (五)では,地域医療に従事する勤務医が果たすことが出来る役割を考察.初期研修終了後の教育では,自ら習得した知識,技術を,院内の若手医師はもちろん,地域の他の医療機関及び診療所医師に講演会,見学,研修受け入れという形で伝えられれば,地域全体の医療レベルの向上につながる―などと提言している.
 (六)では,医療に対して社会は,(1)医師としての資質を持つ医師による医療(2)安全な医療(3)患者中心の医療(4)救急患者に対応出来る医療―を望んでいると指摘.これは,医学・医療に関わる全ての職種の協働によってのみ達成される高度なチームワークであるとして,その協働作業で果たす勤務医の役割が考察されている.

第三章「協働への道」

 第三章は,(一)社会参加できる環境を作る,(二)社会的・潜在的偏見をなくす─医学・医療におけるGender Equalityの実現に向けて─,(三)組織体制を改革する〜特に日本医師会のあり方を巡って〜─から構成され,協働を進めていくための方策等を述べている.
 (一)では,その実現のためには,(1)ワークライフバランスの改善(2)キャリア形成,維持,向上と医業への専念を可能にする環境整備(3)勤務医として働き続けられるシステムの構築―が必要と指摘.勤務状況の正確な把握やチーム医療の推進等の他,医療の個別性・不確実性への理解を得るための社会教育,あるいは医療事故等に際し,組織的に対応するシステムの構築等が重要であるとしている.
 (二)では,真のGender Equalityを実現するために,まずは女性医師が,子育てをしながらでも仕事を続け,キャリアアップ出来るような就労環境を提供することが重要であると指摘.また,医学・医療界の指導者層がリーダーシップをとって,女性医師のキャリア形成と昇進のための「Equal Opportunity」と「Equal Treatment」を推進していくことが最も肝要としている.
 (三)では,(1)医師会への期待(2)医師全員が医師会に加入することを果たすには(3)医師会改革(4)勤務医委員会と部会(5)協働するには何が必要か(6)勤務医の生きがい─について述べられている.
 (1)では,医師会が勤務医の会員数を積極的に増やす方針を提示することと,厳しい勤務医の過重労働を緩和するための開業医の協力体制を構築することが重要であると指摘.また,国民の医療需要を基点にした制度の構築を目指す限り,開業医と勤務医の利害が相反する理由はないとして,医師の総意としての展望と提言を発信していくことが強く求められているとしている.
 (2)では,「執行部の構成」「政治活動」「会費」の問題を指摘した上で,勤務医も開業医も,医師の生涯学習は必須であることから,全ての学会活動が日医の会員であることを前提条件とすることを提言.各専門医の質の保証と必要数の育成や配置についても日医がイニシアチブを発揮すべきであるとした.
 (3)では,医師会の組織自体の改革が必要不可欠であるとして,代議員制度,会長選挙,日医理事の勤務医枠や大学病院医師枠の検討が必要と訴えている.
 理事については,担当する仕事が膨大なため,理事を増やし,勤務医や大学病院の医師にその職に就いてもらうとともに,彼らが再び勤務医に戻れるように,勤務先の病院や大学とも良好な関係を構築しなければならないとしている.
 (4)では,協働のための勤務医委員会,部会の拡大強化策として,「全国的な情報ネットワークを構築し,医療,介護,福祉に携わる人たち,国民への情報発信に努め,医師会が変わったことを示す」「勤務医委員会は,全国各地で生涯教育のあり方,医療安全と健康と生活を守るための活動を推進・強化する」ことなどを提言している.
 (5)では,勤務医が医師会活動に参加するには勤務先の病院の理解が絶対的必要条件であり,そのためには,時間的・人的余裕が必要であると指摘.更に,勤務医として団結するには医師会組織を利用することが一番の早道であることを若手医師や非会員の医師に理解してもらうためにも,広報活動の再考を促したいとしている.
 (6)では,「患者が健康体となって社会復帰出来ることが何よりの生きがいであるが,学会活動等に参加し最新の医学知識を得ることや,学会での発表が評価されることによって勤務医としての存在感を確立出来るし,医師会活動を含めた社会的貢献を行うことも,生きがいに通ずる」と述べている.

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