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日医ニュース目次 第1219号(平成24年6月20日)

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「勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会」の活動

 今回は,勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会(保坂隆委員長・聖路加国際病院)のこれまでの活動並びに二〇一一年度の会長諮問「勤務医の労働時間ガイドラインのあり方について」に対して取りまとめた報告書の概要を紹介する.

一,勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会設置の背景

 近年,医師不足,医師の地域・診療科の偏在,患者の病院志向,業務量の増大等を背景にして,病院勤務医の過重労働が社会問題となっている.このような状況に加え,医療への司法の介入や医師と患者・家族との関係に絡むストレスなどが相まって,勤務医自身のうつ病の罹患,更には自殺にまで至るケースも見られる.
 このようにさまざまなストレスを抱える勤務医の健康状態を良好に保つことは,国民に安全かつ質の高い医療を提供するという視点からも極めて重要であることから,精神面を含めた健康状態の把握,更には健康回復へのサポート等,勤務医の健康支援の方策を検討するために,二〇〇八年に日医会内に「勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会」が設置された.

二,委員会活動

 委員会では,二〇〇八年度に「勤務医の健康の現状と支援のあり方に関するアンケート調査」を,日医会員である勤務医一万人を対象に実施し,この結果を基に以下の取り組みを行ってきた.
 まず,啓発用リーフレットとして「医師が元気に働くための七カ条」と「勤務医の健康を守る病院七カ条」を作成し,病院団体や日医の全会員に配布した.更に勤務医の健康支援のための健康相談事業(E-mail相談や電話相談)を実施した.
 次に,医療機関ごとの職場環境改善の取り組みの一つとして,二〇〇九年度に「医師の職場環境改善ワークショップ研修会」を日医会館において開催した.既に医療機関にも多数の産業医がいるにもかかわらず,医療現場は産業保健サービスから取り残されている職場の一つである.このようなことから,産業保健の視点で,医療機関にいる産業医等の産業保健スタッフの機能を活用しようとしたものである.対象者は,医療機関に選任されている産業医や,医療機関の管理者である.研修内容は,医療機関における産業保健活動とメンタルヘルスに関する講演,ケーススタディを使ったグループワークである.
 二〇一〇年度は熊本県,岡山県,京都府,二〇一一年度は岐阜県,徳島県,山口県,宮城県,高知県,奈良県,佐賀県,東京都の各医師会や麻酔科や精神科学会等においても同様の研修会が開催された.今後の研修会の全国展開に向け,講師やファシリテーターの養成,DVDの作成も併せて行った.
 また,二〇一〇年度・二〇一一年度の二年間,「医師の労働時間の設計基準に関する現場実証調査研究」並びに「勤務医の労働時間のガイドラインのあり方と勤務医の労働時間の見直しの手引き」について,労働科学研究所に研究を依頼し,本委員会においても検討を行ってきた.

三,勤務医の労働時間ガイドラインのあり方について

 二〇一一年度の会長諮問である勤務医の労働時間ガイドラインのあり方についての取りまとめを要約すると,(1)労働時間,勤務体制について見直すことが医師の健康支援につながる(2)そのためには法的な順守も重要だが,自分たちの職場に合わせた働きやすいルールを自分たちで自主的に作り,それをみんなで確認していくことが重要(3)それは同じ医師でも診療科によって非常に多様性があるので,一律の基準で運用するのではなく,診療科ごとにルールを策定し,支援をしていくことが重要(4)専門家の助言を適切に得ながら支援することが重要―の四点である.
 労働時間ガイドラインのあり方を検討するに当たっては,勤務医の健康を支える視点から,「ガイドラインを検討する意義」「医師の労働時間の適正化を図る目的」「考慮すべき点」をまとめた.
 また,医師の健康確保については,(一)医師自身のみならず,その家族,社会にとって重要である,(二)医療の質の向上を図り,患者安全と国民の健康を確保する基盤となる,(三)勤務医がその専門性を発揮出来,医療機関の健全な運営に不可欠である―といった点を踏まえ,ガイドラインを作成するに当たって考慮すべき以下の七つの点を示した.
 (一)労働時間・勤務体制の改善が勤務医の健康確保,安全な医療につながる点を,管理者が確認し,宣言する.
 (二)見直しに当たっては,複合的なチームをつくり取り組む.特に,安全衛生委員会や既にある会議を活用する.
 (三)見直しや改善の進め方は,勤務医の勤務条件の底上げを目指した取り組みとする.現状把握,対策立案等,段階的ステップを設定する.
 (四)管理者の責任において,労働時間の見直しを行う.特に労働基準法三十二条(労働時間),三十七条(時間外,休日及び深夜の割増賃金)を中心に見直す視点は,(1)労働時間管理に関する勤務医への周知の有無(2)労働時間の適正把握(3)労働時間・休憩・休日の取り扱い(外勤・アルバイト)(4)三六協定(残業に関する取り決め)(5)割増賃金(時間外手当,宿直・日直の取り扱い等含む)─の五項目である.
 (五)労働時間に関する自主的な働き方のルールを定め,その運用を確認する.
 (六)労働時間の見直しと併せて勤務医の診療体制・業務配分,過重労働・メンタルヘルス対策等の健康管理体制を見直す.
 (七)見直すに当たっては社会保険労務士等の専門家の助言を得る.
 これらの取り組みに当たっては,医療機関における良好事例を参考に,労働基準法に照らし合わせた働き方(規制)と現在の働き方(実態)について,「現実的なすり合わせ案」を検討することが重要であるとしている.
 今後,この「ガイドラインのあり方」を踏まえ,勤務医の労働時間等働き方の見直しの手引きについて検討する予定である.

四,委員会活動の成果と今後の課題

 「医師の職場環境改善ワークショップ研修会」では,事例検討などを通じて,勤務医の労働環境改善,職業性ストレスによる健康障害防止策を検討し,病院における産業医の重要性の認識,各医療機関が抱える問題や良好事例の共有がなされた.いずれの研修会においても,参加者の高い満足度を得ることが出来,現場での勤務医の健康支援に有益な結果をもたらすものと思われる.また,地域におけるネットワークづくりに寄与しているものと考えられる.
 今後も本研修会用に作成された講義資料等を活用して,各都道府県医師会や各医学会主催で「ワークショップ研修会」が継続的に開催されるよう,日医も支援を行っていく.
 更に,参加者のフォローアップのために,メーリングリストなどを活用し,地域ネットワークをつくり,取り組みの良好事例の共有等,情報交換がなされるよう,併せて支援を行っていく.
 また,勤務医の健康支援のために労働時間・勤務体制を含む働き方の見直しが必要とされており,二年間にわたる「医師の労働時間の設計基準に関する現場実証調査研究」の成果物である「勤務医の労働時間のガイドラインのあり方」と「勤務医の労働時間の見直しの手引き(各医療機関における職場環境改善の好事例集)(今後作成予定)」については,引き続き,医療機関等において検証を行っていく予定である.

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