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第1225号(平成24年9月20日) |
NPO法人千葉医師研修支援ネットワークの活動について
千葉大学医学部附属病院 総合医療教育研修センター教授 田邊政裕
発足の経緯
千葉県には,県内の研修病院が連携して研修医を育成するために千葉県臨床研修制度連絡協議会が設置されている.この協議会の下に,県内の後期研修医の確保を目的とするワーキンググループ(後期研修に関するワーキンググループ)が平成十八年七月に設置された.千葉県医師会から石川広己理事(当時),千葉県から亀井美登里健康福祉部理事が参加され,千葉大学医学部附属病院を始め,順天堂大学医学部附属浦安病院,亀田総合病院,千葉医療センターなど,地域中核病院から八名の先生方が参加された.
ワーキンググループは,平成十八年十月に,「後期研修に関するワーキンググループの中間報告」を取りまとめた.この中間まとめで,研修病院と大学附属病院が一体となり,若手医師の多様なニーズに応えながら,医師研修を安心して行えるサポートシステムの必要性が指摘され,「千葉県で若手医師を育てよう!」との熱い思いがNPO法人千葉医師研修支援ネットワーク(支援ネット)設立の原動力となった.
平成十九年五月には支援ネットの設立総会が開催され,平成二十年三月に法人の設立登記が完了した.事務局は千葉大医学部附属病院内に置かれ,斎藤康千葉大学長を理事長として正式に法人業務がスタートした.
事業内容
千葉県内の医師の養成及び確保に関する事業を行うことで,質の高い医療提供体制の構築を図り,もって地域住民の健康の維持・増進に資することが支援ネットの目的である.
主な事業としては,研修医や専門医の養成と確保,保健,医療,または福祉に関する広報,啓発,相談,病院職員等の能力開発,地方公共団体,病院等の調査研究など,多岐にわたっている.
発足当初の平成二十年度の事業は,医学生や研修医に対する研修病院の説明会,研修医の情報交換会,研修病院間の情報交換会,研修指導者講習会などであり,支援ネットのホームページ(https://www.dcs-net.org/)を充実させて,卒後・専門研修等に関する情報へのアクセスをしやすくした.
平成二十一年度からは千葉大医学部附属病院救急部と共同でICLSコースが始まり,腹腔鏡下胃切除研修会を初めて開催.医療者を対象とする技術研修,ハンズオンセミナーがスタートした.更に,千葉県,千葉大医学部附属病院等と連携して,医師を始めとする医療専門職の技能研修・医師確保の施策についても推進してきた.
千葉県は魅力的な研修環境を創出することにより,県内における医療従事者の育成・確保を強化するとの観点から,千葉大と医療技術研修等に関する協定を平成二十三年三月に締結した.この協定により,千葉大の「千葉大大学院医学研究院附属クリニカル・スキルズ・センター(CCSC)」内に「千葉県医師キャリアアップ・就職支援センター」(センター)を設置し,そのセンターの管理・運営が支援ネットに委託された.
CCSCは多種類の高機能シミュレーター,高度に訓練された模擬患者,シミュレーション教育に熟達した指導医,基本から高度な技能研修(ハンズオンセミナー)まで,多様な研修プログラム,フィードバック・デブリーフィングに必要なビデオモニタリング・レビューシステム等,シミュレーション教育・研修に必要な機能を完備している.千葉大との協働により,支援ネット(センター)はCCSCを利用出来るようになり,県内の医療従事者を対象に高度なシミュレーション教育・研修を提供出来るようになった.
また,医療従事者の患者を対象としない技能研修の徹底により,県民に対する安心・安全な医療を提供出来る体制の基盤が形成された.
今後の期待
平成二十四年四月からは,千葉県地域医療支援センター(医療支援センター)が設置され,従来のセンター業務の多くが医療支援センターに引き継がれた.NPO法人が大学のさまざまなリソースを活用して学内・外の医療者研修を実施し,成果を上げている取り組みは,海外では報告されているが,わが国ではまだ普及していない.今後,この取り組みの有効性を証明し,そのノウハウを公表し,共同利用していくことで地域全体のシミュレーション教育のレベルを向上させ,医療の質の保証とその改善に貢献出来ることを期待している.
支援ネットの事業の一つとして掲げられている病院の調査研究の一環として,研修医の全県登録を開始した.県内の全研修病院に依頼して初期・後期研修医を登録し,彼らのキャリアを長期にわたってフォローアップする.研修医の長期フォローアップにより,研修病院は研修・指導に対するアカウンタビリティーを果たすとともに,研修の質の改善,研修医の生涯にわたる支援を行うことが出来る.
千葉県の医療資源を安定的に維持し,研修病院の研修機能の改善・強化にもつながる企画であり,今後も継続的に見直し,運用していく予定である.
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