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第1241号(平成25年5月20日) |
子育てと仕事の両立の長いトンネルを抜け,今思うこと
東京女子医科大学女性医師再教育センター副センター長 片井みゆき
男性医師と同様,夢と希望を持ち医師になった私だが,十八年前,子育てと仕事を両立し始めた時は大きな壁を意識せざるを得なかった.当時私が居た大学では,子どもを持ち働き続ける女性医師が周囲に少なかった.ロールモデルを模索し,ボストンまで行き,女性教授のもとで働いた.米国で子どもを持つ女性医師達が生き生きと活躍する姿を見て目を見張った.
帰国後,大学で後輩達と話す中,女性医師のキャリアについても教科書が必要だと思った.米国の『Women in Medicine─Career and life management─』という素晴らしい本に出会い,これだと思った.日本の医師や医学生にも読んでもらいたいと翻訳を思い立ち,『女性医師としての生き方─キャリアと人生設計を模索して─』(じほう)として二〇〇六年に上梓(じょうし)した.
その後,時代は大きく変わり,数々の女性医師支援の取り組みが国や自治体,医師会,病院などをあげて始まっている.
私自身,子育ての真最中は出口の見えない長いトンネルの中を走っているように思えたが,この春,子どもが大学へと進学し,「巣立ちの時」を迎えた.子どもが病気の時でも仕事に出ていかざるを得ない母親であったが,高校の卒業文集に「(自分も)人を救うために働きたい」と記された文字を見て胸が熱くなった.
かつて行った調査で,常勤職を離れた女性医師の理由の第一位は子どもが急病時のバックアップのなさだった.バックアップがない状況では,自分の仕事のために子どもが病気の時にここまで無理をさせて良いのかという呵責(かしゃく)に耐え切れなくなる.
後輩の医師やその子ども達のために,男性も女性も子育て期を含めて,医師として常勤職を続けていけるようなシステムや環境づくりが出来たらと考えている.
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