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第1243号(平成25年6月20日) |
東京都医師会勤務医委員会答申
大庭建三 前東京都医師会勤務医委員会委員長
東京都医師会長よりの諮問とその背景
近年の国民からの,質の高い,安心かつ安全な医療への要望の高まりや,医療の高度化や複雑化が進み,医師負担は急速に増大している.殊に病院に勤務する若年・中堅層を中心にその労働状況は極めて厳しい環境に置かれているのが現状である.
このような背景から,東京都医師会長からの諮問は「勤務医負担軽減の具体策について─『勤務医の労働環境の問題点と改善策』及び『患者対応の問題点と対応策について』のアンケート結果も踏まえて─」であった.
本委員会の特徴
本委員会の特徴は,従来の委員会が大学ブロック医師会を中心に構成されていたのに対して,慢性期,急性期,特定機能病院にまで至る幅広い病院形態からの医師構成とし,加えて弁護士及び病院事務長各一名の参加を得て,幅広い視点からの議論を行った.
過去のアンケート調査結果による提言内容と本答申の総括
諮問に際しての条件である前々及び前委員会におけるアンケート調査結果による提言を表にまとめた.本委員会では,その内容を七項目に分類し,それぞれに対して討議を加えて提言を行った.個々の項目についての提言内容を記述する紙数はないので総論的に述べることとする.
勤務医の負担軽減対策は,国としての診療報酬改定における「医師事務作業補助体制加算」を始めとする多くの算定項目の設置のみならず,自治体,日医,及び東京都医師会を始めとした地区医師会や勤務医を抱える施設等からの取り組みが着実に進んでいる認識では一致した.
結果として,各項目においての提言では,前及び前々回の二つの答申から大きく超える内容のものを提示することは困難であった.しかし,「国民・患者の病院医師の業務実態への理解と協力へのお願い」の項で行った「節医療」の提言は,これが将来的には勤務医負担軽減に大きくつながっていく本委員会からの重要な問題提起との認識で一致したので以下に紹介する.
「節医療」の提言
「節医療」は一委員からなされ,全委員の賛意を得た本委員会による造語である.二〇一一年三月十一日以来,日本の電力事情は一変し,国民の間に節電の意識が向上した.医療供給についても同様に限界があるが,これが国民の間で十分に認識されているとは言い難い.
現況の限られた医療資源をより適切に使うという意味での「節医療」は,国民,医療者の両者に負わされた重要な課題と考えられる.
医療供給側の「節医療」の課題としては,(一)倫理的,医学的合意を基に医療供給の限界を明示する,(二)医療の不確実性について社会に対して説明する,(三)説明と同意について医師のみでなくあらゆる医療職が組織的に対応し,訴訟リスクを減じる対策をとる,(四)医療職間での連携を深めることにより,各職種の補完と役割分担を進め医療現場でのリスクの低減を図る,(五)がん医療,血液透析,救急医療などにおける節医療の議論を深め,医療経済学的観点や終末期医療を含めた適切な医療のあり方を明確にする,(六)地域の病院統廃合と規模拡大による集中化と役割分担の明確化を促進する─ことなどが挙げられる.
医療を受ける側の「節医療」の課題としては,(一)疾病,疾病予防及び社会保障制度などを含む医療を正しく認識する,(二)軽症者の不要不急の救急車の要請や救急受診が,真に救急対応が必要な者への救急医療に支障を来す結果となることを理解する,(三)国民皆保険制度はわが国の誇るべき財産であるとの共通認識を持つ─ことなどである.
国としては,優れた日本の医療サービスを継続して提供するために国全体としての医療ビジョンを国民に適切に提示・説明すべきである.このためにも「節医療」への配慮は重要と考える.
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