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第1253号(平成25年11月20日) |
勤務医座談会(最終回)7月12日開催
「勤務医の組織率向上に向けた具体的方策」をテーマに
専門医資格の取得にメリットは必要か
泉(司会) 専門医資格を取得することのメリットは必要だと思いますか.
江崎 最近の学生は,専門医の取得が一つの目標になっていると思います.ただ,専門医を取得したからといって終わりではなく,日々進歩する医学・医療に対応するためのバックボーンとなる判断能力や,自ら検証する力が必要だと考えます.日医は,学会等との連携を深め,医学生や研修医に学術的な面からも関わっていくことが出来ると思います.
杉山 専門医の取得が一つの到達点だと思っている学生は多く,特に女性医師の場合,専門医を取ってから出産するつもりだ,といった話をよく聞きます.
専門医としての能力を維持するためにも,更新が厳しくなり,その上で取得している人のメリットを考えるということであれば,ありだと思います.
長沼 専門医を取得するのも,維持するのも大変だけれども,その代わり取得している人には特権が与えられる,というものは必要だと思います.
土岐 専門医を取得する以上,一定の技術の保証と,知識と経験を要するというものであれば,インセンティブやアドバンテージがあってしかるべきであり,それがなければ長期的にはレベルが落ちると思います.
医療は日進月歩ですから,更新の際に,知識として問うというようなことも必要だと思います.その義務を負うかわりに,メリットを享受する権利があると考えます.
医師会は勤務医を守れるのか─労働時間・女性医師支援─
泉 「医師会は勤務医を守れるのか」についてご発言下さい.
土岐 日医の「勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員会」が作成した「勤務医の健康を守る病院七カ条」「医師が元気に働くための七カ条」を拝見しました.休日の取得や,子育て・介護支援策の必要性等が提案されていて,素晴らしい内容なのですが,これには強制力がない.
担当の患者さんが急変したり,急患が運ばれて来れば医師は駆けつける.若い先生も使命感がありますし,ずっとそうやって育ってきていますから,「休んでいいよ」と言われても,休めないのです.しかし「休まなければ法律違反だ」と言われれば,休めると思うのです.
結果的に,過重労働をしている医師が診療を続けた場合,医療過誤などにつながる可能性が高くなりますので,患者さんのためにも,医師会が強制力のある制度を提案していく必要があるのではないでしょうか.
長沼 医師の過重労働に関して疑問をもち,せめて自分の病院の所属している科だけでも,改善しようと働き掛けてみました.
研修医は,当直明けの翌日,午前中の指示出しと回診が終わったら休んでいいと提案して,実行しました.
しかしながら,マンパワーの問題がある上,「学ぶ機会が奪われる」と考える研修医や,「そんな甘いことはやらなくてもいいのではないか」といった勤務医自身の意識の問題もあり,実際には機能しませんでした.
提案した私自身も,外来で診療している患者さんが,夜間に救急で運ばれて来れば,当番でなくても診に行ってしまうなど,休めていない状況です.
私の病院でも診療科によっては,科の方針として当直明けは午後で帰るなどとしているので,組織としてのバックアップが必要だということを実感しています.
杉山 学生の時に,病院の女性医師が「女性でも外科に行きたいと思いますか」というアンケートをとったのですが,大多数の学生が「行きたくない」と回答し,その理由の多くが「QOLが悪い」というものでした.
今勤務している病院は,上司の先生が,積極的に若い先生に声掛けして下さっていて,当直後一週間以内に半休を取るというシステムがあり,もちろん日々の忙しさで取れないこともありますが,取れるときには半休を取って,子どもと過ごすことが出来ています.
それには病院のマンパワーが必要だということもありますが,上の先生の考え方によって環境が異なることがあると思うので,全国の病院で,勤務環境改善に関する見解が統一され,普及していくことが大事になってくると思います.
江崎 当直明けの休みなどについては,そもそも医師数が足りなければどうしようもないということがあります.この他,医師としての能力,倫理観や責任感には個人差があります.そこで,医師会には,個々の医師の臨床能力や責任感といった質が一定に保たれるような取り組みを行って欲しいと思います.
併せて,一病院の診療科の中でスタッフ全員がバランス良く,均等に休めるようにするには,情報の共有や,救急医療における体制づくりが必要になってきます.今はITを活用して,多くのことが可能になったので,医師会には,マンパワー不足に対するさまざまな補助策を,普及させて欲しいと思います.
例えば,私の病院では,救急外来の当直体制だけでは対応出来ない患者さんが来た時に,IT機器を使って,院外の診療科医師や病院幹部と相談出来る特殊な救急支援システムを試験運用しようとしています.それを使えば,病棟の中の急変患者等にも対応出来るということで,楽しみにしています.
梅邑 岩手県立病院にはさまざまな制度があり,当直明けの職務専念義務の免除だけではなく,育児支援でも,未就学児をもつ場合,かなり充実しています.一つは短時間勤務制度,これはいくつかのパターンから選べて,週二十〜二十五時間働けば正規職員として雇用される制度です.その他,産前後休,育休,部分休や看護休,深夜勤務の免除もあります.
こうした勤務環境の改善や女性医師へのサポート制度があったとしても,運用出来るかどうかはマンパワーもさることながら,上司の考え方によるところもあります.
結局,運用面で一対一の交渉になることが問題だと思うので,研修医や子育て中の女性医師などが制度を利用出来るように,医師会がサポートしてくれることを望みます.
科長レベル以上の先生は日医に入っている方が多いと思いますので,提言などを単に情報発信するだけではなく,管理者を対象にした勤務環境改善への啓発を目的としたワークショップなどを,今後も継続的に全国で開催し,徹底して頂ければ,勤務医の労働環境も良くなると思います.
医師会は勤務医を守れるのか─医療事故調査制度について─
泉 医療訴訟や医療事故にさいなまれている医師を,どうしたら守れると思いますか.
長沼 医療はサイエンスです.医師会には,医師の専門家集団として,診療行為を科学的な根拠から客観的に判断し,説明することが求められると思います.
江崎 厚生労働省補助事業「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」が福岡県でも実施されていますが,その対応作業は負担が大きく,中小病院等の参画が容易ではありませんでした.そこで,福岡県医師会では,医療事故が発生した中小病院等からの要請を受けて,医師と看護師の調査分析支援チームを派遣し,剖検の取得や院内事故調査委員会の手順などの事前調整等,さまざまな支援を行い,県内の医療機関が同モデル事業に参画出来る体制を構築しています.看護師は,二十四時間看護を行い,その記録を残しているので,看護師がチームに参加する意義は大きいです.
土岐 患者さんの生命を助けるために,日々頑張って診療し,最善を尽くしているにもかかわらず,不幸な結果になってしまった場合に,刑事訴追されてしまう可能性を否定して欲しいという一点が,外科医の共通した意見です.
小森 本日は貴重なご意見をお聞かせいただき,ありがとうございました.
泉 ありがとうございました.
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