日医ニュース
日医ニュース目次 第1259号(平成26年2月20日)

勤務医のページ

医学部から見た医師不足対策─医学生の学力,地域枠,医師の偏在
広島大学医学部長 吉栖正生

 今日,医学部では,卒業後のキャリア形成も視野に入れて医学教育を行っている.本稿では,医師不足対策に関連していくつかのポイントを論じる.なお,以下の文章は医学部長個人の意見であり,所属する組織の見解ではない.

学力低下の現状

 医学部入学定員の増加は目覚ましく,平成二十六年度(計画)と増員開始前の平成十九年度を比較すると全国で千四百三十六名増加している.大学別に見ると,和歌山県立医科大学は六十名から四十名増加して百名に,岩手医科大学と福島県立医科大学は八十名から五十名増加して百三十名と,広島大学の百名から二十名増の百二十名という状況とは比較にならない大幅増加の大学がある一方で,元々の定員に対する増加率が一〇%以下にとどまる大学は十八校に上る.
 さて,全国医学部長病院長会議・医学生の学力低下問題に関する検討WGが,「医学生の学力低下問題に関するアンケート調査結果二〇一三年」という報告を出している.その結果を見ると,のように入学定員の増加と並行して留年生が増加しているように見える.一方,この調査で興味深いのは,センター試験で見る限り,特に顕著な入学時の学力低下は認められないことである.
 ここ最近の学生において,古典的な不真面目な態度による学力不振よりも,覇気がないとか,何をどのように勉強していいか分からないといったタイプの学力不振が目立つ印象がある.このような学生気質の変化に,入学定員の増加などが加わり,留年者の増加を来たしているのかも知れない.
 全国における留年者や休学者の増加は,卒業生数の深刻な減少を招くため,今後,更なる調査・解析と対応策の確立が望まれる.

勤務医のページ/医学部から見た医師不足対策─医学生の学力,地域枠,医師の偏在/広島大学医学部長 吉栖正生(図)

地域枠入学生の確保と卒業生の約束遵守

 医学部入学定員の増加は,その多くがいわゆる地域枠による増員である.
 広島大学の場合は,広島県の強力なご支援の下,高校への働き掛け,最終的に専門医を志望する者への進路保証,地域枠学生による活発な定期セミナーなどを通じて入学希望者の学力を担保してきた.
 更に,地域枠卒業生の約束遵守は極めて重要な課題である.広島大学では,学生・卒業生にさまざまなキャリアプランを提示することで,安心して義務の遂行をしてもらえるよう取り組んでいる.
 さて,結婚などの理由でやむを得ず他府県に異動する希望がある場合,義務年限についてどう対応するか,という問題がいずれ浮上する.各県が,他府県における地域医療勤務を自県における義務遂行と同等と認定する,自県における義務遂行を猶予し長期にわたり先延ばしする,などの方策が考えられる.

医師の地域偏在の軽減

 医学部入学定員の増員や医学部新設等について多くの議論がなされているが,いわゆる地域偏在の軽減策を同時に行うことが必須である.そこで個人的に大都市圏の人気初期研修病院への働き掛けを考えている.次にその例を示す.
 「桜田門病院長 彦根直弼先生(仮名)……さて,初期研修医枠に全国から多数の応募がある貴病院において,次のような公告を行って頂ける可能性はないでしょうか.すなわち『将来,当院の幹部医師職を目指される方々へ:医師不足に悩む全国の自治体での二年以上の地域医療勤務歴を,当院における平成三十五年度以降の院内人事の評価項目の一つと致します.』といった宣言です.長期にわたる約束になりますので設立母体であるKKRとの共同発表が望ましいと思います.ご検討のほど,何卒,よろしくお願い申し上げます.」
 キャリアを積んでいく医師が,比較的若い時に一定期間,自発的に地域医療に従事することを推奨する制度を,大都市圏の多くの有名病院が採用して下さることを切に希望する.

このページのトップへ

日本医師会ホームページ http://www.med.or.jp/
Copyright (C) Japan Medical Association. All rights reserved.