日医ニュース
日医ニュース目次 第1259号(平成26年2月20日)

勤務医のひろば

増え続ける高齢者の嚥下障害にどう対処するのか
川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター所長 宮森 正

 川崎市立井田病院は,常に市民の要請に応えているが,最近は,高齢者の発熱・脱水・低栄養が合併した嚥下障害・嚥下性肺炎の緊急入院が目立つ.
 嚥下性肺炎は,抗生剤などで改善するが,嚥下障害は回復困難なことが多く,栄養失調や衰弱が進む.
 回復しない嚥下困難には,栄養補給の有無により,延命的対処か,非延命的対処かの方向を本人家族と決めなくてはならない.延命的には,胃瘻,経鼻経管栄養,高カロリー輸液の選択肢,非延命的には,末梢輸液のみでは衰弱が進む,誤嚥で食べれば,肺炎再発か窒息が待つ.抑制が必要な経管栄養は,施設では受け入れない.施設介護のために,胃瘻手術を選択する家族もいる.点滴が必要な場合も,施設はダメ,療養型病院は,高額で裕福な家族しか入れない.一方,在宅ケアでは,胃瘻,経鼻栄養,輸液などが可能だが,家族の介護力が要求される.
 非延命希望の場合,末梢点滴のみで最期を待つ終末期ケアは,急性期病院では対応困難である.挙句,肺炎は治り,治療のゴールなので,食事は取れないが,明日退院して下さいという無責任な病院がはやる.
 行き場がなく,在宅を勧めても,独居・老々介護で困難,三世帯家族でも,日中独居で無理の返事.まして,非延命の在宅看取りなど,そんな怖いこと絶対出来ないと,拒否される.やっと在宅ケアとなり,往診医に紹介しても,発熱,脱水ですぐに救急要請,再入院の繰り返しとなる.
 「食べられない」高齢者を,どう看ていくのかという社会的コンセンサスと,家族や医療者の覚悟がないまま,問題が起きれば入院させている間に,病院は高齢者で身動き出来ない状況になりつつある.高齢で食べられなくなったら,自分を含めて家族をどう介護するのか,人任せにせず,事態に向き合うべき時代に突入したのではないだろうか.

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