日医ニュース
日医ニュース目次 第1267号(平成26年6月20日)

勤務医のひろば

海外日本人就労者の疾病管理は万全か
(公財)田附興風会医学研究所 北野病院腎泌尿器センター・腎臓内科主任部長 武曾惠理

 二〇〇五年ごろ外来で三人続けて上海から病気で帰国を余儀なくされた患者さんを診察した.もともと高血圧や軽い慢性腎臓病で治療していたとのことだったが,脳出血を起こしたり,腎機能低下の進行,肺疾患合併と重症化していた.たまたま三人とも同じ大手の会社に所属,そのトップを診ていたこともあり,調査を依頼された.そこで,公益財団法人である当院の設立八十周年記念事業として,「上海に住む日本人就労者の疾病管理の調査と日中共同医療介入の効果を調べる研究」を二〇〇七年から開始した.国際医療連携研究を進めるに当たり話し合いが続いたが,連携大学である京都大学を通じて上海の復旦大学と協議し,その関連病院である崋山病院の国際医療センターで,当院の外来ブースを開くこととなった.
 具体的には,上海滞在歴一年以上で,治療を要する高血圧,糖尿病,高脂血症,慢性腎臓病に罹患(りかん)している三十〜五十歳の主に男性患者を,一年間定期的に当院の医師が診て,常駐する当院の出張看護師が生活指導を行い,前後の病状,QOL(生活の質)の変化を調べた.
 結果として,二〇一二年までに千人余りの日本人患者さんにインタビューし,このうち二十八人に介入を行った.上海で働き続ける日本人のめげない逞しさに感心しつつも,「宴会」と「乾杯(かんぺい)」の連続で持病が悪化するのも無理からぬことと理解した.一年間の日中共同医療介入(特に昼夜を分かたぬ日本人看護師の生活指導と相談対応)で,体重減量に取り組んだ患者さんは,血圧は下がり,何よりもQOLの改善が有意に得られた.中国側医療人もその意義に注目し,増えている富裕層の健康管理にも生かそうと,現在中国側から当院へ,医師,看護師,事務職の研修留学が続いている.
 今後もアジアを含め,多くの海外就労者が増えることは十分予想され,働き盛りの方々の雇用側・行政一丸となった健康・疾病管理には,病院勤務医としても,また医師会としても,知恵を出して注文を付けていくべき課題と考える.

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