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第1271号(平成26年8月20日) |
女性医師支援の現状と課題:筑波大学附属病院での女性支援の取り組み
筑波大学附属病院総合臨床教育センター病院教授 瀬尾恵美子
近年の医学部入学者に占める女性の割合は約三分の一であり,筑波大学附属病院の初期臨床研修医も女性の割合は三五%である.今後もその割合は高まることが予想されており,これからの病院には女性医師が働き続けられる勤務環境の改善が望まれている.
筑波大学附属病院の女性医師支援
本院は,平成十九年度文部科学省「地域医療等社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム」に「女性医師看護師キャリアアップ支援システム」が採択され,女性医師・看護師の離職防止,復職支援を積極的に行ってきた.
女性医師の妊娠・出産・育児の時期は,認定医や専門医取得,学位取得といったキャリアアップの時期と重なる.妊娠・出産を契機に仕事を辞めたり,非常勤やアルバイトに転向すると専門医の取得が難しくなり,専門医を持っていないと育児が一段落しても常勤に戻るのが難しくなる.
本院の支援プログラムは,(1)診療・研修のコーディネート(2)キャリアカウンセリング(3)環境整備─の三要素からなる.
(1)診療・研修のコーディネート:一口に女性医師と言っても,専門分野,それまでのキャリアは人それぞれであり,プライベートの事情もさまざまであるので,本人,キャリアコーディネーター,診療科で相談して,経験に応じた診療・研修プログラムを個人に合わせてオーダーメイドで作成している.
(2)キャリアカウンセリング:専門医の取得が,このプログラムに参加する女性医師の最大の目標であり,専門医が取得出来るようにコーディネーターがカウンセリングを行っている.プログラム開始当時は,女性医師一人当たり支援が受けられる期間は三年間であったが,需要の高まりを受け,専門医所得まで支援可能期間を延長した.平成二十九度年には新専門医制度の開始が予定されており,ますますキャリアカウンセリングが重要になると考えられる.
(3)環境整備:他施設の育児支援は,未就学の子どもを持つ者を対象としていることが多いが,本院の制度は小学校三年生までの子どもを持つ女性医師が対象となっていて,いわゆる「小学一年生の壁」にも対応出来るようになっている.
また,三百六十五日保育が可能な病院併設保育所が整備され,産休,育休明けの女性医師・看護師の保育のニーズに柔軟に対応出来,医療という特殊な環境の中で勤務する女性にとって大きな助けになっている.
女性医師支援の課題
平成二十五年二月に筑波大学附属病院で臨床実習を行っていた女子医学生(四年生三十七名,五年生十六名),初期研修を行っていた女性医師(一年目十七名,二年目二十八名)に,働く上で必要な支援に関するアンケート調査を行った(回答者八十三名,回答率八四・七%).支援が非常に重要と答えた割合が五〇%以上の項目は,「家族の理解と協力」七四%,「職場における理解と協力」六八・九%,「病児保育の整備」五七%,「託児所,保育所等の整備・拡充」五七%,「児童(学童)施設の充実」五二%であった(図).
託児所や保育所,児童(学童)施設,病児保育といった施設の整備は重要ではあるが,どんなに良い制度,設備をつくったとしても,家族や職場の上司,同僚などの理解,協力がなければ,女性医師は周囲に迷惑をかけていると感じ,結局は申し訳なさから離職してしまうことになりかねない.
本院の女性医師支援の利用者へのアンケート調査でも,本取り組みに参加していることで周囲の理解が得やすかったことが,参加して良かった理由として多く挙げられた.働きやすい体制のみではなく,働きやすい雰囲気づくりが大切なのである.
今後は,子育て中の女性医師への支援が,育児や介護中の男性医師支援などに広がり,医師全体の労働負荷軽減につながることを期待したい.
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