|
第1296号(平成27年9月5日) |
愛媛県 愛媛県医師会報 第877号より
ドクターマジック
藤原 壽則
ケースからティッシュペーパーを1枚ずつ取り出して細長く裂いていく。7〜8枚裂いてテーブルの上に山盛りに盛る。丼を取り上げ、中が空であることを客に見せる。ティッシュペーパーの山を丼に入れ、水差しから水を丼にたっぷりと注ぐ。割り箸でかき混ぜ、できたうどんをすくい出して、客に見せながら食べる。「ええっ、どうして?」「うどんを食べているよ」などなど見ている人達が口にする驚きや笑いなどが楽しい。
マジックを始めて7年になる。この間、E新聞社によるカルチャー教室・マジックコース、通信教育で学んでいる。マジック用具はインターネットで購入しているが、専用の部屋に入り切らない数になっている。学んだマジックは鏡台の前などで繰り返し練習し、家族に見せてそのでき具合を確かめる。カードマジック、ロープマジックから人体浮揚まで、百余のマジックが演じられるようになった。
最近では、地域の老人会の行事、老人施設、デイサービスセンターなどからの依頼で毎月数回、高齢者たちの集まりでマジックを演じている。
マジックの歴史は古く、エジプト、メソポタミア、インド、中国などで人類の文化の発祥とともに誕生した。演目の一つ「カップ・アンド・ボール」は古代エジプトの4千年以上前と推定される洞窟壁画に描かれている。娯楽としてのマジックが誕生したのはタネ仕掛けと手先の早業が進歩してからとされている。
「カップと玉」は、カップの中に小石などを入れて、観客の前で現したり消したりするマジックで2千数百年も前に演じられたものだが現在も演じられているものである。14世紀の末になるとカードマジックが登場し、大衆の娯楽として隆盛を極め、脚光を浴びてくる。18世紀に至ると多くのマジシャンが現れ、その社会的地位も次第に認められてくる。19世紀には近代奇術の父と呼ばれるロベール・ウーダンが機械、電気力を応用し、科学マジックを確立している。演者の服装に燕尾服を着用するなど、演出法にも工夫が凝らされ、高い気品と豪華絢爛(けんらん)たる舞台で演じられるようになった。
マジックはとみに賑わい、優秀なマジシャンが続々と現れる。弾丸受けのヘンリー・アンダーソン、笑う生首のトーマス・トービン、人体浮揚術のハリー・ケラー、胴体切り術のハワード・サーストンなどが有名である。彼らは次々と新しいマジックを考案して世界の大舞台で演じ、大衆から絶大な支持を得た。
わが国におけるマジックの歴史は、奈良時代に唐から仏教と共に伝来したと言われている。当時は私たちが考えるレクリエーションマジックではなく、呪術、祈祷(きとう)、予言、まじない、千里眼といったもので、不思議な現象は全てマジックとしていたようだ。
マジックには、手先の器用さで人の目を欺くもの、仕掛けを用いるもの、科学や数学の理論を応用したものなど、その種類は無数にある。OA機器を使うマジックなど、マジックも大がかりなものでないと驚きがなくなってしまう傾向にある。しかしマジックには、見せる側と見る側の一体感から生まれる、本当の喜びと触れ合いがあるのだ。
マジックは老若男女共通で楽しめ、初めて会った人や言葉の通じない外国の人でもコミュニケーションが取れ、演じる人と見る人が楽しさを共有することができる。
何気なくハンカチやコインを取り出して、見ている人をアッと驚かせる、不思議の世界へと導き、歓喜させる、そんな演技を求めてマジックを続けていきたいと考えている。
(一部省略)
|