日医ニュース
日医ニュース目次 第1296号(平成27年9月5日)

プリズム

負うた子に教えられ

 親父62歳、息子34歳である。身長はもちろんとうに追い越されてはいるが、体重では負けてはいない。標榜は同じ消化器内科である。
 大学病院に勤務する息子は、開業医の親父から週に1回代診をしてバイト代を稼いでいく。東京ではゴルフの練習もままならないらしく、バイトに来た木曜日には必ず昼休みに練習場に通っている。最近はゴルフに熱くなっていて、専門書や雑誌にも良く目を通している。
 小学生の頃は親父にクラブで頭を押さえられ泣きながらスイングしていた息子が、それとなく練習場でつぶやいた。「コースばかり行っていてもゴルフは上達しないよね。練習場で玉数を打たなきゃね。」
 忙しさにかまけて練習場にはほとんど行っていなかった親父のスコアはどんどん落ちてきていて、息子と10打以上あった差も最近はほとんどなくなっていた。親父も週に1回は練習場に行くことにした。
 ゴルフはさて置き、内視鏡の腕はもちろんまだ負けてはいないと確信していた親父だが、「この胃角の癌(がん)の深達度はどう思う」と質問したら「これって癌(がん)じゃないんじゃない?」という息子の回答に、7日後に病理の結果が出てから息子の未熟さを説教しようとしていた親父であったが、まさかの良性という結果が届き、息子の勝ちが確定した。息子は最新の雑誌も文献も読み、研究会にもよく参加しているらしい。
 2〜3年後には開業している医院を譲ろうかと思っている親父だが、それまで持つだろうか? 親父も明日は研究会に出掛けることにした。

(がんこ親父)

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