日医総研シンポジウムが、「東日本大震災5周年 災害対応と復興にむけて」をテーマに3月18日、日医会館大講堂で開催された。
石井正三常任理事の総合司会で開会。冒頭、主催者あいさつで横倉義武会長(中川俊男副会長代読)は、日医が災害対策基本法上の「指定公共機関」の指定を受け、その後、自身が「中央防災会議」委員に就任したことを報告。
その上で、「今後も医療に携わる者として、被災した方々の不安を解消し、健康で安定した生活を実現できるよう一層の支援をしていきたい」との考えを示した。
続いて、永田高志九州大学大学院医学研究院先端医療医学講座災害・救急医学分野助教、澤倫太郎日医総研研究部長を座長として、講演6題が行われた。
Ⅰ.「災害からの復興─国際社会からの経験─」
ステファニー ケイデン ブリガムアンドウィメンズ病院国際救急医療部国際救急医学フェローシップ・ディレクターは、災害のサイクルは、減災、防災、災害発生、対応、そして復興という過程を、災害復興の心理的変化は、英雄期、ハネムーン期、幻滅期、そして再生期という過程をそれぞれ経ると説明。
この過程を、ハイチ地震(2010年)、インドネシア津波(2004年)、ハリケーンカトリーナ(2005年)等、国際社会で起こった災害を通して紹介しつつ、災害弱者の視点、長期的な視点に基づく災害復興予算執行の重要性を訴え、「途上国・先進国を問わず、地域住民の声に耳を傾けなければ、適切な支援はできない」と結んだ。
Ⅱ.「レジリエンスと災害 我々はこの新しいパラダイムから何を学べるか」
ジェロルド ケイデン ハーバード大学デザイン大学院都市計画・デザイン学科教授は、近年、災害の分野で注目されている"レジリエンス"という考え方について、オランダの洪水(1953年)とニューヨークにおけるハリケーンサンディ(2012年)を例に説明した。
国土の大半が海抜下のオランダでは、「水と闘う」のではなく「共生する」という考え方により、新しい防災のあり方を実現。
一方、ニューヨークでは、将来の洪水に耐えられるような計画をコンペティションとして公募したことで斬新なアイデアが生まれ、復興につながったとした。
Ⅲ.「災害復興法学のすすめ~東日本大震災4万件のリーガルニーズを教訓とした法的強靱性の構築と発信」
岡本正中央大学大学院公共政策研究科客員教授は、東日本大震災後、日弁連に構築した4万件を超える法律相談事例データベースの分析から、災害直後の法的支援の重要性を指摘。
法律家の提言等により実現した主な法改正について解説した他、防災教育・法的強靱性(レジリエンス)の必要性を強調し、『災害復興法学』を紹介した。
Ⅳ.「大震災を越えて─被災地の対応と教訓─」
橋本省国立病院機構仙台医療センター副院長・宮城県医師会常任理事は、災害拠点病院・被災県医師会の立場から、災害対応時、指揮権の確立によって迅速な意思決定が可能となったこと等を報告。情報伝達・通信の確保が重要であり、今後の災害対策の最重要・最優先課題であるとした。
Ⅴ.「人口減少時代の防災・復興─求められる知恵と覚悟─」
河合雅司産経新聞論説委員は、今後、防災を考える際には少子高齢化の影響を織り込み、逆転の発想である"戦略的な縮小"によるコンパクトなまちづくりが必要だと指摘。
そのために何より重要なのは、「大型開発」発想との決別、意識改革であり、地域のつながりの再確認が防災・復興の大きなポイントになるとした。
Ⅵ.「東日本大震災からの復興において女性の果たした役割」
森まさこ参議院議員は、東日本大震災から見えてきた男女共同参画に係る課題と政府の動き等に触れ、自身が大臣時代に作成した「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」について説明した他、宮城県石巻市・福島県飯館村・同県いわき市の復興における女性の活躍事例を紹介した。
その後、石井常任理事・永田助教が座長となり、6名の演者をパネリストとしてパネルディスカッションが行われた。
その中では、「復興予算の縛りが強すぎて使いにくい」「慢性疾患の薬や免疫不全等の特殊な患者さんに対する準備の不足」「継続的な訓練によって、災害対策の目標を知り、間違いを見つけることが重要」「災害関連死に対する調査の必要性」「情報の共有と伝達に関する訓練が必要」等、活発な意見交換が行われた。
参加者は、県医師会におけるテレビ会議システムでの視聴者を含め合計201名。