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平成30年(2018年)1月20日(土) / 日医ニュース

医師の働き方改革

勤務医のページ

 日本は世界に冠たる長寿国であり、長きにわたり国民皆保険を維持してきたことは、誇るべき事実である。これはひとえに先達医師による献身的努力の賜物であり、この制度は我々日医会員が永劫(えいごう)に堅持すべきものである。
 しかしながら、最近このシステムを根本から揺るがす議論がなされている。「医師の働き方改革」である。
 初めに、医師の職制に関する個人的な考え方を述べる。
 医師は聖職であり、患者の安寧が一義で、そのためには日々の研鑽は当然の責務である。この考えも、ややオールドファッションとなっているようだ。
 この議論の背景には、企業における労働者の過労死が社会問題となり、政府による働き方の見直しが開始されたことが挙げられる。
 平成28年末には、「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査研究班」による勤務実態調査が行われた。ここでいう医師の勤務時間に、「診療時間以外の待機時間・自己研鑽の時間を含むのか」が現在の争点となっている。
 大学病院のような教育研究機関において、勤務時間をどのように考えるかも大きな問題である。更に新たな専門医の仕組みを通じて、医師偏在にも議論は波及している。病院の経営的側面を鑑みると、収拾がつかなくなっている感すらある。
 本稿では、これまでに語られることの少なかった「働き方改革」の問題点を挙げてみたい。
 第一は、基礎医学の衰退である。
 iPS細胞開発によりもたらされた再生医療は、ようやく臨床現場に届こうとしている。これに加え、ゲノムやビッグデータに代表されるイノベーションは、医学にパラダイムシフトをもたらそうとしている。
 この黎明期において、医療現場を知る若手医師の基礎医学への参画は、医学の進歩にとって必須である。
 その主力となる大学院生は、働き方改革の中でどのような立場となるのであろうか。
 もちろん、志ある若手医師は労働時間の枠を越え、研究に打ち込むであろう。しかし、労働時間を厳密に適応しようとすれば、研究室の明かりを消される状況も想定される。周囲も基礎研究の重要性を理解し、集中した研究が行える環境が確保されるのかが、重要なポイントである。
 第二は、タスクシフティング(タスクシェアリング)の盲点である。
 医師数を増やすことなく、その業務負荷を減らし、本来の業務に専念できる体制づくりは歓迎すべき方向である。
 現在でも、メディカルクラークの導入など、大きな成果を上げていることは事実であり、タスクシフティングは過重労働解決の切り札となる。
 しかし、「医師による当直業務」は、医師にしか遂行できない。当直時間のどこまでを拘束時間(超過勤務)とするかは、今後の議論に委ねたい。だが、その間も医療の専門化・細分化に伴う業務量は膨大となっていく。
 タスクシフティングを有効に活用するには、多職種が協働するIT技術の活用は必須である。しかし、そのポテンシャルを医師が使いこなせるかが問題となる。私自身、電子カルテの豊富なサポート機能のほんの一部しか使えていない現状であり、少しでも個人の生産性が上がらないか、反省の日々である。
 第三は、医師のジェネレーションギャップである。
 冒頭の「医師は聖職であり、患者の安寧が一義で」は、あくまで私見である。しかし、先達を含め、多くの医師に共通の認識であり、国民もそのように理解している。
 一方、現在の初期研修制度に身を置く医師は、「労働者」として厳密に勤務時間が規定されている。
 そのため、定刻になれば帰宅し、残りの業務は指導医が引き受けるのは、多くの現場で見られることである。
 そのような中で、研修医はと言うと、当直明けの勤務が医療事故の誘発につながることを教えられている。
 今後、医師の働き方改革は、国民を巻き込んだ議論が必要である。そのためには、早急にこのギャップを埋める必要がある。
 働き方改革の議論は、多くの「パンドラの箱」を開けてしまった。現在の社会保障の財源では、この問題に適切な「解」はない。
 しかし、議論の方向は、医師の労働時間の削減や労働基準局への対応ではなく、医療水準の向上に向かうべきである。
 そのためには、やりがいやワーク・ライフ・バランスが向上する環境づくりが必須であり、仕事の効率化も当然これに含まれるが、その構築には相当の時間がかかる。現行の5年の猶予期間では、とても解決できるとは思えない。
 少なくとも、病院という組織で指導的立場にいる医師は、自らの労働時間に配慮し、自らが健康であること、更に、他の医師の働き方についても無頓着であってはならない。

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